○冒頭、祈りの間(前話ラストの少し前)
鶸は匠海と美羽に襲われる
鶸「や、やめて!」
匠海「黙れ、アザ持ちめ!」
匠海に神楽の衣装を無理矢理剥がれる。
鶸(大事な神楽服が……っ)
匠海が長襦袢姿の鶸を縛り上げ、納屋に押し込める。
美羽「ふんっ、こんなもの!」
美羽は転がった古い神楽鈴を足で壊す。
鶸「やめて!!」
鶸の悲鳴、涙。
鶸は岩場の近くの納屋に押し込まれる。
美羽は構わず神楽服を身に纏う。
美羽「やっぱり私にこそ相応しい」
うっとりと神楽鈴を持ち笑う。
匠海「似合ってるよ、美羽」
うっとり顔。
美羽「当然よ。あなたのために舞うんだから」
匠海「ああ、楽しみだ」
匠海は美羽の腰を抱き寄せながら舞台に向かう。鶸はそんな2人の後ろ姿を見ながら涙ぐむ。
鶸(結局ひとりでは戦えない。また奪われてしまった。助けて……、枝蕊っ)
泣きそうになる。

○現在に戻る、納屋、助けに来る
枝蕊「鶸!」
枝蕊が飛び込んでくる。
鶸の猿轡や拘束を取る。
鶸「どうして……」
枝蕊「昔から鶸を見付けるのは得意だったろう?」
そして枝蕊は壊された古い神楽鈴を見せる。
鶸「それは……ごめんなさい。また守れなかった」
枝蕊「いや……きっと鶸に大事がないように守ってくれたんだ」
鶸(守られていたのは……私?)
枝蕊「もう神事には使えないが、元は生き神の角だ」
いびつな角を生やす先代の生き神の後ろ姿。
枝蕊「役割を終えれば御神体の一部として祀られる」
ほこらに祀られる角。
枝蕊「神楽の奉納が終わったら感謝を込めて返しにいこう」
鶸「うん」
壊れた古い神楽鈴を抱き締める鶸。
駆け付けた桔梗に巫女服を渡され、静嵐が壇上に導いてくれる。

○神楽の舞台、夜。
舞台の上でくるくると回る美羽。
美しいが全く神楽ではない。
集まった観衆。
人間A「何だあれは。神楽とは呼べない」
人間B「そもそもあの娘は誰だ?」
鬼「あれは鬼の若君の花嫁だ」
神職(人間)「鶸ちゃんが舞うと聞いていたんだが」
そもそも鶸ではない(巫女をしていたので社の関係者は顔を知っている)
美羽にその声は届かない。
美羽(みんなが私を見てる!私に魅了されている!やっぱり神楽を舞うべきは私なのよ!)
美羽は自分を囃し立てる声だと勘違いして愉悦の笑みを浮かべる。
美羽「痛ぁっ!」
突如神楽鈴のトゲが刺さり落っことし、血が滴る。
美羽「何なのよこれ!不良品じゃない!」
匠海「美羽!無事か!」
土足で舞台に上がる匠海。
枝蕊「その神楽鈴は生き神の写し身。つまりは俺の写し身だ」
枝蕊が鶸と壇上に上がる。
枝蕊「俺が神楽にと指名した鶸を差し置いて神楽鈴を奪ったのだ。罰が与えられるのは当然だろう」
美羽「何よ!私が舞った方がみんな喜んでいるじゃない!」
枝蕊「そう見えたのか?」
観衆の戸惑う顔を捉える枝蕊。
枝蕊「そもそも神楽が誰に捧げられるものか知らないのか」
美羽「私は匠海さまのために舞ったのよ!」
匠海「そ……そうだぞ!」
枝蕊「愚か者どもめ!神楽は生き神である俺に捧げられるものだ!」
枝蕊の右角が黒々とした覇気を纏う。
美羽「い……生き神だなんて嘘よ!そんな恐ろしい角をして!」
枝蕊「見た目でしか他者を判断できないとは。ならばお前にはこの罰が相応しいな」
トゲに刺された美羽の指から腕に恐ろしいアザが走る。
美羽「イヤアァァッ!?何よこれぇっ!」
匠海「美羽!おい、ここの生き神は万病万傷を癒すのだろう!?早く美羽を治せ!」
枝蕊「誰にものを言っている」
枝蕊が感情を殺した神の目で匠海を一瞥する。
枝蕊「神を化け物と呼ぶものに加護などない。もちろん……お前にもだ」
枝蕊は匠海を見る。
匠海「……は?」
鶸(匠海はどこかで加護をもらっている……?鬼の若君だからだろうか)
美羽「うう……っ、治してよぉ……こんな醜いアザぁ……っ」
枝蕊「知るものか。誰が何を言おうと俺は鶸を選ぶ。俺のために神楽を舞うのは鶸だけでいい」
鶸に向かい合う枝蕊。
匠海「こ……こうなれば……そうだ!鬼の頭領の一門が黙っていない!この社ごと……」
匠海が言いかけた時、誰かが壇上から匠海を引きずり出す。
頭領「馬鹿者がぁっ!貴様は加護を授かっておいてよくもこんなっ」
頭領が匠海を殴り飛ばし、一門の鬼たちに引きずらせていく。
枝蕊は神楽鈴を拾い鶸に渡す。
枝蕊「俺のために舞ってくれ」
鶸「任せて」
鶸は決意のこもった目で頷く。
美羽「ちょっと……それは私のっ、むぐっ」
美羽は社の男衆に引きずり落とされる。
鶸は神楽を舞う。
枝蕊の荒御魂の角が和御魂に戻って行く。
鶸(清らかな鈴の音が響き無病息災が祈られる)
枝蕊(生き神がそれに答えれば角が抜け落ち人々の願いを聞き入れる御神体となる)
枝蕊の角が抜け落ち歓声が上がる。鶸の頬からアザが消える(本人は気が付いてない)。
同時に人々がどよめく。枝蕊にエスコートされながら壇上から降りる鶸は不思議そう。
桔梗「鶸ちゃん、見て」
桔梗が取り出した懐鏡にはアザの消えた鶸の顔があった。
鶸「……どうして」
枝蕊「言ったろう?生き神の角は万病万傷に効くと。神は時に奇跡を起こす」
鶸「……奇跡」
まだ起こったことを信じられずぼうっとする鶸。
美羽「何でアンタのアザが消えるのよ!私のアザを消しなさいよ!!その奇跡も私に寄越しなさいよ!!」
鶸、決意のこもった顔で言い返す。
鶸「私のものは私のものだよ。枝蕊からもらった神楽鈴も、神楽の衣装も渡さない。返して」
美羽「嫌よ!幼い頃に両親を失くした私がかわいそうだと思わないの!?私はかわいそうだから望んだものは全部手に入るのよ!」
それが美羽の言い分。
鶸「あなたにはあげない。絶対に」
憤る美羽。
美羽「何ですって!?鶸のくせに!」
桔梗「言いたいことはそれだけかしら?」
怒った表情の桔梗と巫女たちが美羽の神楽服を剥ぎ取る。
桔梗「私たちの大切な子を傷付けた酬いは払ってもらうわよ」
巫女A「そうよそうよ!」
巫女B「こっちは幼い頃からずっかわいがってるんだから!」
鶸「みなさん……っ」(私はずっと社のみんなに守られていた。先代の神楽鈴だけじゃなくて、みんなに)
美羽「返してよぉっ!」
美羽の手首のアザが首もとまで迫り悲鳴をあげる。
美羽「いや……嫌よおおぉっ、アザ持ちなんてイヤアァァッ」
鶸「現実を受け入れなよ。そしてあなたがやって来たこと、ちゃんと自覚すべきだよ」
美羽「あん……っ」
言い返そうとする美羽。
静嵐「ここからは野暮だ。叩き出せ」
男衆A「了解!!」
男衆B「見守って来たのは巫女たちだけじゃねえんだからな!」
男衆C「静嵐さまのお許しが出りゃぁこっちのもんよ!」
今度は男衆たちに引きずり出されていく。

鶸「またひとりでは取り戻せなかった」
しゅんとする鶸
枝蕊「1人でできないことも2人でやれるのが伴侶だぞ」
その言葉にホッとする。
枝蕊「それに、俺のために頑張ってくれる鶸が好きだ」
鶸「……っ!わた……しも、枝蕊のこと、好きだよ!」
精一杯の気持ち。
枝蕊「鶸……っ。嬉しい!俺の……妻になってくれるか?」
鶸(答えなど当の昔に決まっている)「……うん!」
鶸、満面の笑顔。
夫婦の誕生に歓声が溢れる

○祭り囃子の中を歩く2人、夜
鶸と枝蕊はほこらへ角と古い神楽鈴を奉納する。
枝蕊「これでいい」
鶸「うん。今まで見守ってくれてありがとう」
古い神楽鈴に礼を述べる。
鶸の言葉に答えるように不思議な光が舞う。

○2人を出迎える桔梗と静嵐
静嵐「おめでたいな、無事お前たちが結ばれたとは」
桔梗「ええ。おめでとう!」
枝蕊・鶸『ありがとうございます!』
枝蕊と鶸は顔を合わせて微笑み合う。周囲の祝福を浴びながら祭りが終了する。