○冒頭のヒキ・境内・晩夏
鶸モノローグ(もうすぐ5年に一度の奉角祭がやってくる)
社の鳥居には『薬祖鬼神』の文字。
枝蕊「鶸。今度の奉角祭で神楽を舞って欲しい」
枝蕊:右だけ黒角を手折られた黒髪金眼の鬼。17歳。着流し。
鶸「え……奉角祭で……!?」
鶸:16歳、左頬のアザ、焦げ茶色の髪と瞳。巫女服。
鶸(私はしがない末端の社巫女だと言うのに)
両手を胸元でぎゅっと握りしめる鶸。
鶸(どうして私なの?)
左頬を撫でる。
鶸(こんな醜いアザのある私が……何故)
○朝来家・朝、初秋
鶸(奉角祭……生き神に選ばれた巫女が神楽を奉納する)
鶸の脳裏に神楽を舞う紫の髪の巫女(後述の桔梗)が浮かぶ。
鶸(そして生き神から角が抜け落ち御神体として祀るのだ)
祭器に盛られる枝分かれした虹色の角。
鶸「本当に私でいいの?けど……」(枝蕊さまの気持ちには答えたい)
神楽鈴をぎゅっと抱き締め玄関を出ようとする鶸。巫女服。
美羽「アンタ何それ、神楽鈴ってやつ?こんなアザ持ちの女が神楽?きっと私の方が相応しいわ!」
美羽がやって来る。
美羽:鶸の義妹、淡い茶髪に魅力的な黒曜石の瞳、美少女。16歳、上質な着物。
鶸「きゃっ!?」
突き飛ばされて地面に倒れる。美羽、神楽鈴を奪う。
鶸「か……返し……っ」
手を伸ばす。
美羽「この私に口答えするんじゃないわよ!」
不機嫌な美羽、鶸を突き飛ばす。
鶸(奪われてばかりの私でも枝蕊さまに役目を与えられた時、嬉しかった)
俯く鶸。
鶸(でも結局、変わらない)
悔しげに涙ぐむ。
○鶸の過去回想/美羽、鶸7歳
鶸(幼くして両親を喪った美羽は分家のうちに引き取られた)
美羽「アンタにはお父さまもお母さまもいるじゃない!なのに何でくれないの!?」
美羽:子どもの頃から恵まれた容姿。
美羽が鶸からウサギのぬいぐるみを奪い突き飛ばす。
鶸(大切なおもちゃも着物も何もかも取られた)
母「鶸。あの子は両親を喪ったのよ。我慢しなさい」
鶸(……っ)
親に味方になってもらえず我慢するしかなく悲しげな鶸。
鶸(決定的だったのは美羽が11歳の時に鬼の頭領の息子の許嫁に選ばれたこと)
母「あの子が欲しがるのなら我慢しなさい」
父「鬼の若さまの花嫁なんだから」
両親『欲しがるものはあげなさい』
絶望をあらわにする鶸(11歳)
○現在に戻る、玄関
美羽「今度の奉角祭では私が神楽を奉納するわ」
美羽が得意げに告げる。
美羽「匠海さまに私の舞を捧げるの!」
美羽が思い浮かべる許嫁の後ろ姿、鬼角。
鶸(自分の許嫁に……?)
満面の笑みで神楽の真似事をする美羽。
鶸(もう私は枝蕊さまに舞を捧げることはできないんだ)
生きる意味を失くし、絶望の表情。
○社、境内、昼過ぎ
鶸は暗い顔で境内の落ち葉を掃く。
枝蕊「鶸」
鶸「枝蕊さま」
驚き息を喉につまらせる。
枝蕊「朝、何故神楽の稽古に来なかった」
枝蕊は固い表情。
鶸「……神楽を舞うのは美羽になったのでは?なら、私は……」
俯く鶸。
枝蕊「何の話だ」
ツンと突き返す。
鶸「美羽が若さまのために舞うのだと」
(枝蕊さまだってアザのある女より美しい美羽の方がいいに決まっている)
枝蕊「奉角祭の神楽は生き神に捧げられるものだ。そんなものは知らない。明日はちゃんと来るように」
枝蕊は冷たく告げると踵を返す。
鶸「……はい」(けれど神楽鈴をどうすれば……)
箒を持ちながらひとり立ち竦む鶸。
○朝来家、夜
鶸「神楽鈴を……返してください」
廊下、美羽の部屋の前、震えながら勇気を振り絞る。
美羽「何ですって?」
美羽が激昂し鶸の左頬を叩く。
美羽「私のものを取る気?あれは私のものよ!この泥棒!」
美羽の激昂に使用人や両親が集まる。
「美羽のものを欲しがるなんて」「なんてあさましい」「醜い頬と同じく卑しい」「今夜は外に出ていろ!」
叩かれた左頬を押さえてふるふると震える。
○翌日、社、本殿
一晩中外に締め出されぐったりとしている鶸。
枝蕊「神楽鈴はどうした」
鶸「な……失くして……しまって」
焦りが顔に出る鶸。
鶸(枝蕊さまから託された大切な神楽鈴だったのに)
枝蕊「午前の稽古は取り止めだ」
鶸「では、せめてお務めを」
←枝蕊を失望させたくない
鶸は急いで立ち上がるがふらりとよろめく。
枝蕊は咄嗟に抱き止める。
枝蕊「そんな状態で働かせられるか」
(鶸をそんな状態にした者に対して)
鶸「その……申し訳っ」
枝蕊「謝ることじゃない。とにかく、少しじっとしていろ」
枝蕊が鶸を抱き上げる。
鶸「あの……っ」
慌てる鶸。
枝蕊「じっとしていろ」
鶸は申し訳なさと恥ずかしさの両方で俯く。
枝蕊は鶸を抱っこし回廊を進む。
○本殿、仮眠室
枝蕊は鶸を仮眠室の布団の上に寝かせる。
枝蕊「熱もあるか」
鶸の額に手を乗せる。
枝蕊「……少し寝ていろ」
枝蕊は席を立つ。
鶸(身体がぐったりと重くて動けない)
鶸はそのまま睡魔に呑まれていく。
○祭具殿
予備の神楽鈴を探す枝蕊。
枝蕊(神楽鈴を失くした……?あれを渡してからいつも大事そうに抱いていたのに)
(はあ……顔に出すぎだ)
鶸の表情を思い出す。
(しかも……俺が気が付かないとでも思っているのか)
枝蕊は古い神楽鈴を見付ける。
○仮眠室に戻る
枝蕊「少し休めたか」
鶸「……はい」
枝蕊は鶸に予備の神楽鈴を渡す。
枝蕊「先代の生き神の神楽鈴だ」
鶸(神楽鈴に使われるのは生き神の角だ。奪われたのは当代の……枝蕊さまの角)
震えながら神楽鈴を抱き締める鶸。
枝蕊(その腕の中から強引に奪い取ったとしたら……赦しがたいな)
○社、夕刻
鶸(寝かせてもらってだいぶ楽になった)
窓の隙間から射し込む西陽を見て顔を青くする。
鶸「夕飯の仕度……帰らなきゃ」
枝蕊を探しに仮眠室を出る。
鶸(言い争いの声?)
恐る恐る声の元へと向かう。
美羽「鶸はどこでボサッとしてるわけ?夕飯の仕度がまだなのよ。どうしてくれるの!?」
美羽と相対するのは夜凪静嵐。
静嵐:鬼。神主の服装、40代、黒い鬼角、藍髪、鋭い銀眼。
静嵐「ここは生き神さまのおわす神聖な本殿。許可なきものは退出願おう」
美羽「私は匠海さまの許嫁よ!?」
静嵐「それが何だと言うんだ」
美羽「言うことを聞くのが筋ってものでしょ!?」
その時美羽が鶸を見る。
美羽「鶸!とっとと帰ってきて夕飯の仕度をしなさいよ!」←静嵐が言うことを聞かないので苛立っている。
鶸「その……」
美羽の剣幕に後ずさる鶸。美羽は鶸の胸元の神楽鈴を見る。
美羽「なぁに?その汚い神楽鈴!まさかまだ神楽を踊る気!?」
美羽が鶸に迫り神楽鈴に手を伸ばす。
鶸「嫌……っ」
神楽鈴をきつく抱き締める。
静嵐「おい!」
静嵐が手を伸ばす。誰よりも早く枝蕊が美羽の手首を掴む。
枝蕊「汚い手で触れるな」
本気で怒っており冷酷な表情を向ける枝蕊。
美羽「き、汚いですって!?私のどこが……」
美羽が驚愕する。
美羽「きゃあぁぁっ!!?」
枝蕊に掴まれた美羽の手首がじゅ~~っと白煙が上がる。
美羽「放して!痛い……熱い!何なのよ!」
枝蕊「どんな薬も用法を誤れば毒となる。和御魂も荒ぶればお前たちを蝕むように」
枝蕊の右角からどす黒いいびつな角が伸びる(8センチくらい)
美羽「ひ……っ、化け物ォッ」
枝蕊が美羽から手を放せば、美羽の手首が火傷のように爛れていた。
美羽「覚えておきなさい!匠海さまに言い付けてやる!」
美羽が逃げていく。
○美羽が去って、本殿、陽が沈む
鶸「枝蕊さま、申し訳っ」
枝蕊「謝るな。それより……」
枝蕊がつらそうに顔を歪ませる。
枝蕊「俺が荒ぶればこの荒御魂が芽を出す。できるだけ冷静にとは心がけているが」
心配そうな鶸。
枝蕊「こうなってしまえば鶸にしか治せない」
「私……?」
枝蕊「ああ。昔もそうして俺を戻してくれた」
鶸の脳裏に浮かぶ9歳の枝蕊。右角からは黒々として枝分かれするいびつな角が伸びていた。
枝蕊「このような化け物に触れるのは恐ろしいだろうが」
鶸「そんなことないっ!」
首を横に振る鶸。
鶸(知っている気がする)
鶸は神楽鈴を背中に挟むと、枝蕊の両頬に両手のひらを添える。
枝蕊は前屈みになり鶸と額を合わせる。
鶸「枝蕊さま」
黒々とした邪気は消え、枝蕊の右角から伸びたいびつな形の角は虹色になる。
枝蕊「俺を恐れないでくれて……ありがとうな」
枝蕊は鶸の左頬を優しく撫で、その愛おしい手付きに鶸は涙ぐむ。
鶸(……私の方こそっ)

