にくゑ-断片

■断片5|ランドセルの裏
【メモ帳より】
 教室の机に、ランドセルが入ってた。

 体育のあと戻ってきたら、自分の席の机の中に、赤いランドセルが押し込まれてた。
 この学校は、小さいから、初等部から高等部まで全部同じ建物で、
 ときどき備品とか間違って置かれてることもあるけど、でも──

 これだけは、おかしかった。

 誰も触ろうとしなかった。
 クラスのみんなは黒板を見てるふりをしてて、
 でも、目の焦点がどこにも合ってなかった。

 私は、そっと引っぱり出してみた。
 革はやわらかくて、ひんやりしてて、ちょっとだけ湿ってた。
 肩ひもが片方ちぎれてて、びろって垂れてる。

 裏返して、背中が当たる部分を見た。
 細い針でなぞったみたいな線が、何本も何本も、刻まれていた。

 ──かえさない
 ──かえさない
 ──かえさない

 同じ言葉が、重なるように書かれてた。
 古い傷みたいに、色が褪せて、それでも読めるぐらいには残ってた。

 なんでこんなものが、って思って振り返ったとき──
 清音が、後ろの席で、じっと私を見てた。

 視線が、すごく静かで、すごく冷たくて、
 でも目だけが、私の手を見ていた。

 それで、私は黙って、ランドセルを元に戻した。

 放課後、もう一度見たけど、そこにはもうランドセルはなかった。