にくゑ-断片

■断片34|決断の夜
【メモ帳より】
 #にくゑ #創作ホラー #断片連載 #一次創作

 吉川先生と会った。
 診療所で、最後の相談。

「この村を、燃やすしかない」
 先生がそう言ったとき、私は驚かなかった。

 もう、そうするしかないって分かってたから。

「にくゑは火に弱い。完全に焼けば、拡散を止められる」
「でも、村の人たちは?」
「もう、人間じゃない」

 先生の目が、すごく悲しそうだった。

「君だけは助かる。抗体があるから」
「私だけ?」
「……そうなる」

 清音のことを考えた。
 もう手遅れなのは分かってる。
 でも、あの子も最初は人間だった。

「分かりました」

 私は言った。

「でも、最後に清音に会いたい」
「危険です」
「お別れだけ」

 先生はしばらく考えてから、うなずいた。

「明日の夜。それまでに準備を整える」

 私の人生で、一番重い決断だった。
 でも、これ以外に道はない。

 佐藤さん一家のことを思うと、胸が痛い。
 あんなに優しい人たちだったのに。
 陽太くんは、まだ3歳だったのに。

 でも、もう救えない。
 私にできるのは、これ以上の犠牲を止めることだけ。