にくゑ-断片

■断片32|パンデミックの始まり
【メモ帳より】
 何かがおかしくなってる。

 昨日から、村の人の様子が変。
 道ですれ違うとき、口の端から赤い液体垂らしてる人がいる。
 子どもたちの笑い声が、妙に湿ってる。

 学校休校になった。
「インフルエンザ」って言ってるけど、嘘だと思う。

 窓から外見てたら、隣の家のおばさんが庭に立ってた。
 でも、おばさんの背中から、細い手がたくさん生えてた。
 その手が、空中で何かを掴もうとしてた。

 吉川先生から電話。
「もう時間がない。今夜、診療所に来て」

 清音からもメール。
「ごめんなさい。もう止められない」

 何が止められないって?

 外で、誰かの笑い声が響いてる。
 でもその声、だんだん人間じゃなくなってる。

 怖い。
 でも、なんで私だけ平気なの?
 なんで私だけ、まだ人間のままなの?

 清音が飲ませてくれた、あの甘い汁。
 あれのおかげ?

 それとも、私も、もう人間じゃないの?