にくゑ-断片

■断片30|地図がちがう
【メモ帳より】
 役場でもらった観光地図には、祠が載っていなかった。
 清音と一緒に行った、あの祠。
 石段を上って、木立を抜けて、鳥居をくぐった先。
 たしかにあった。あの場所に。

 でも、地図ではただの空白だった。
 山道の表示もなかった。

 試しに地図をなぞって歩いてみた。
 川沿いにあるはずの神社は、封鎖されていた。
 草が生い茂っていて、誰も通った形跡がなかった。
 でも、昨日まではそこを通学路にしていた。

 学校の掲示板に貼ってある避難経路図とも、微妙に違っていた。
 ひとつ多い家、存在しないはずの橋、途中で途切れた道。

 先生に聞いたら、「それ、古いのじゃない?」と笑われた。
 でも、印刷された日付は去年のものだった。

 清音に言ってみたら、少し間を置いてから、
「……迷いやすい場所、あるからね」って答えた。
 それだけだった。

 帰ってから、手帳に自分で地図を描いてみた。
 でも、どうしても合わなかった。
 昨日の記憶と、今の風景と、配られた地図。
 どれも少しずつ違っていた。

 まるで、村の形そのものが、すこしずつ動いてるみたいだった。

 今思えば、にくゑの影響だったんだと思う。
 現実を歪めて、認識を混乱させる。
 だから、外の人には見つからない。
 だから、逃げることもできない。