にくゑ-断片

■断片23|畑の手伝い
【メモ帳より】
 今日は学校で、畑の手伝いがあった。
 村の子はみんな慣れてるみたいで、黙々と作業してたけど、私は軍手の中で手が汗だくになった。

 教室の裏にある小さな畑。
 でも、ふしぎと陽が当たらなくて、
 空は晴れてるのに、畝の影がやけに濃くて、土の色も赤黒い。

 私は、苗を植えるための穴を掘ってた。
 スコップが土に刺さるたび、ぬるっとした感触が手に伝わる。
 草の根が絡まっていて、引っ張るとぶちぶち音がした。

 三つめの穴を掘っていたときだった。

 土の中に、目があった。

 ……ほんとうに、「目」だった。
 丸くて、白くて、土のあいだから、じっとこっちを見てた。
 まぶたがない。瞬きもしない。
 濡れていて、赤い筋が入っていた。

 私の心臓が、一回だけ、音を忘れた。

「……清音」

 声が震えたのに、彼女はすぐ横で淡々と草をむしっていた。
 顔をあげて、「なに?」と少し首をかしげた。

「土の中に、……誰かの、目が──」

 言いかけたとき、清音はふわりと笑った。
 声は澄んでいたけれど、どこか遠くから響いてくるように感じた。

「そう見えたのね。……根っこって、ときどき、人のかたちに似てるの」
「でも大丈夫。驚くことじゃないわ」

 それだけ言って、また静かに作業を続けた。

 私はそっともう一度、穴をのぞいた。
 目は、なかった。
 かわりに、引きちぎったみたいな太い根が一本、ぬるりとそこにあった。