にくゑ-断片

■断片21|儀式の準備
【日記より】
 もう時間がない。

 体の7割が、もう人間ではなくなった。
 朝起きると、新しい器官が増えている。
 昨夜は、左の脇腹に口が開いた。
 小さな歯が、きれいに並んでいる。

 鏡を見るのが、怖い。
 でも見ないわけにはいかない。
 変化を記録しなければ、次の子に伝えられない。

 祭りの準備が整った。
 移住者の家族も、参加することになっている。
 妊娠していることは、村の人たちも知っている。

 これは、計画通りなのか。
 それとも、偶然なのか。

 にくゑは、新しい命を特に好む。
 純粋で、穢れがなくて、可能性に満ちているから。

 でも、母親は抵抗するだろう。
 本能的に、子を守ろうとする。
 それが、儀式を不安定にする。

 私が制御しきれるだろうか。
 この体で、最後まで役割を果たせるだろうか。

 もし失敗したら――
 村の全てが、にくゑになる。
 制御者のいないにくゑは、際限なく増殖する。

 次の巫女が、間に合うだろうか。
 あの子は、まだ自分の運命を受け入れていない。

 時間がない。
 本当に、時間がない。