■断片D|聞き書き(昭和五十年代・雑誌記事より)
――以下、某老人の証言。聞き手による筆記
「わしはあの村で生まれた。もう六十年も前の話じゃけどのう。
子どものころから決まりが多うてな、夜は道の真ん中を歩けとか、井戸に石を投げたらいかんとか、やたらとうるさい村じゃった。
なんでかって? そりゃ“肉ゑ”のためよ。あれは神じゃのうて、人の肉が寄り集まったもんじゃ。雨乞いに沈めた娘の肉が、いつまでも溶けんで残って……それが増えていった。
わしは、見てしもうたんじゃ。村の娘を井戸へ運ぶのを。みんな笑うとった。親も、兄弟も、泣かんのよ。口角を上げて、声もなく、ただ笑うとった。今思い出しても気色悪い。
そうして……しばらくして井戸から“なり損ない”が出てきた。人の形をしておるようで、目も口もずれていて、声も出ん。ただ笑うだけよ。
わしは、あれを見た夜から、もう村におれん思うた。逃げ出したんじゃ。あいつらに笑われながらな」
――証言者は数年後、所在不明となった。
――以下、某老人の証言。聞き手による筆記
「わしはあの村で生まれた。もう六十年も前の話じゃけどのう。
子どものころから決まりが多うてな、夜は道の真ん中を歩けとか、井戸に石を投げたらいかんとか、やたらとうるさい村じゃった。
なんでかって? そりゃ“肉ゑ”のためよ。あれは神じゃのうて、人の肉が寄り集まったもんじゃ。雨乞いに沈めた娘の肉が、いつまでも溶けんで残って……それが増えていった。
わしは、見てしもうたんじゃ。村の娘を井戸へ運ぶのを。みんな笑うとった。親も、兄弟も、泣かんのよ。口角を上げて、声もなく、ただ笑うとった。今思い出しても気色悪い。
そうして……しばらくして井戸から“なり損ない”が出てきた。人の形をしておるようで、目も口もずれていて、声も出ん。ただ笑うだけよ。
わしは、あれを見た夜から、もう村におれん思うた。逃げ出したんじゃ。あいつらに笑われながらな」
――証言者は数年後、所在不明となった。
