にくゑ-断片

■断片16|若い医師
【メモ帳より】
 また村の医師に診てもらった。
 吉川先生、思ってたより若い。30代前半?
 都市部の大病院から来たらしい。
 なんでこんな僻地に?

 白衣のポケットに、高級そうなペンが見えた。
 でも袖がすり切れてて、なんか切ない感じ。

 初診で血圧測ってたとき、先生の手が止まった。
 メーターを見つめて、眉間にしわ。
 もう一度測り直し。また止まる。

「数値が……」
 言いかけて、首を振った。
「また、僕の判断ミスかもしれません」

 判断ミス?
 なんで急にそんなこと言うんだろう。

「異常ですか?」
「いえ、機械が古いのかもしれません」

 嘘だ。
 先生の目、明らかに動揺してる。

 聴診器当てられたとき、先生がぽつりと言った。
「この村、長いんですか?」
「来たばかりです」
「そうですか……よかった」

 よかった?

 診察終了後、先生が小声で言った。
「もし何か、普通じゃないことがあったら、すぐに相談してください」
「今度こそ、ちゃんと患者さんを守りたいんです」

 今度こそ?
 先生、なんかあったのかな。

 帰り際、窓越しに先生を見たら、
 カルテを見ながら頭を抱えてた。
「また僕には無理なのか…」って呟いてるのが聞こえた。

 数日後、先生から電話。
「梓さん、お時間ありますか」
「人のいないところで、お話が」

 声が震えてた。

 この村で、唯一まともな大人かもしれない。
 でも先生も、何かと戦ってる。

【メモ帳の隅に走り書き】
 吉川先生、なんで本当はここに来たんだろう
 逃げてきた?
 それとも、調べに来た?