にくゑ-断片

■断片12|密談
【メモ帳より】
 吉川先生から緊急の連絡。
「すぐに診療所へ。人のいない時間に」

 夜8時、裏口から入った。
 先生、コーヒーを何杯も飲んだみたいに手が震えてる。

「梓ちゃん、君は医学の知識ある?」
「少しだけ。本で読んだ程度」

 先生が血液検査の結果を広げた。
 村の人たちの検査データがずらり。

「これ、全部異常値なんだ」
「どんな?」
「血液中に、本来存在しないタンパク質がある」

 資料を指さしながら説明してくれる。
「医学書には載ってない。論文でも見たことがない」

 別の紙を出した。
 私の検査結果。

「でも君だけは違う。このタンパク質がまったく検出されない」
「それって?」
「感染してないってことだ。もしくは、免疫がある」

 感染。
 その言葉で、すべてが繋がった気がした。

「先生も?」
「僕もまだ大丈夫。でも時間の問題かもしれない」

 先生がため息ついた。

「実は半年前、隣町の警察から連絡があった」
「行方不明者の件で」

 私の顔を見て、続けた。

「この村に移住予定だった家族、3人組。到着予定日から連絡が途絶えた」
「でも村の人は『そんな家族、知らない』って」

 ぞっとした。

「それと、過去5年で同様の失踪が3件」
「すべてこの村への移住者」

 先生の手がまた震えた。

「そして今、また新しい家族が村に来てる」
「佐藤さん一家のことですね」
「そうだ。君が心配してる家族も、過去の失踪者と同じパターンなんだ」

 先生が私の目をじっと見た。

「僕たちも、いずれ同じ運命を辿るのかもしれない」
「でも君なら、もしかしたら彼らを救えるかもしれない」

 希望と絶望が入り混じった目で、先生が私を見た。

【メモ帳の隅に走り書き】
 吉川先生、本当に怖がってる
 でも一人じゃない
 何かできるはず