にくゑ-断片

■断片11|甘い飲み物
【メモ帳より】
 清音が小さな瓶をくれた。
「これ、よかったら」

 手のひらサイズの丸い瓶。
 蓋に巻かれた布、夕日に透かすと血みたいに赤い。
 清音の指が触れた瞬間、氷みたいに冷たかった。

「村の子はみんな、これを飲んで育つの」
 
 なんの説明もなし。
 でも断る理由もない。

 家に帰って、瓶をまじまじと眺めた。
 なんでだろう、見覚えがある気がする。
 母の遺品を整理してた時、似たような瓶を見た気がする。

 でも思い出せない。

 夜、瓶を開けた。
 甘い匂いがふわっと立ち上がる。
 でもその奥に、鉄の匂い。生臭い匂い。

 液体はあめ色で、とろり濃厚。
 ひとくち口に含んだ瞬間──

 舌がしびれた。
 甘いのに、苦い。温かいのに、冷たい。
 のどを通る時、何かがざらざらした。

 体が重くなって、こたつで眠ってしまった。

 夢の中で声が聞こえた。
「やっと来てくれたのね」
「待ってたの、ずっと」
「今度こそ、最後まで」

 誰の声かわからない。
 でもすごく懐かしく感じた。
 母の声に、似ていた。

 朝起きたら、なぜか冷蔵庫に瓶がしまってあった。
 私がやったのかな。覚えてない。

 でも不思議と「毎日少しずつ飲まなきゃ」って気持ちになった。

 その日から体調が劇的に良くなった。
 東京にいた頃の貧血、頭痛、すべて消えた。
 
 でも、なんで母の遺品に似た瓶があったんだろう。

【メモ帳の隅に走り書き】
 母、何か隠してる
 この液体、普通じゃない
 でも体調いいから、まあいいか