にくゑ-断片

■断片8|清音との出会い
【メモ帳より】
 バス降りた瞬間、空気が違った。
 東京の重いやつじゃなくて、軽くて甘い匂い。
 でも腐った感じも混じってて、変な感じ。

 村の人はみんな優しい。
 玄関にお米とか野菜とか置いてってくれる。
 でもみんな同じ笑顔で「よろしくね」って言う。
 練習したみたいに、全員同じ。

 村長の家で清音に会った。
 村長の娘。

 すごく綺麗だった。
 陶器みたいに白い肌、まっすぎな黒髪、深い瞳。
 でも一番印象的だったのは静けさ。
 清音の周りだけ、音が止まってる感じ。

 覚えているのは放課後の言葉。
「良かったじゃね、みんなと仲良うなって」
 清音がゆっくり私たちを見ていて、時が止まった感じがした。

 透明な声だった。水の底から響いてくるような。
 ノート受け取るとき指が触れたら、氷みたいに冷たかった。
 でも嫌じゃなかった。夏の夕立みたいに、心地いい冷たさ。

 帰り道、二人で歩いた。
 川の音聞こえるのに、水面全然揺れてなかった。

「この村、好き?」って清音が聞いた。
「まだ分からない。でも静かでいいと思う」
 清音が微笑んだ。その瞬間、心臓がばくばくした。

 お母さんが死んでも動かなかった心が、清音の微笑み一つで激しく波打った。
 こんなふうに心が動くって、初めて知った。

「あなたも、きっと気に入ると思う。この村は、来るべき人を選ぶから」

 来るべき人を選ぶ。
 なんだか意味深だったけど、清音がそう言うなら、そうなのかもしれない。

【メモ帳の隅に走り書き】
 清音って、なんで他の子と違うんだろう
 でも聞けない
 この気持ち、壊したくない