にくゑ-断片

■『プロローグ』
 その封筒は、ある朝、郵便受けの底に差し込まれていた。 消印もなければ宛名もなく、切手さえ貼られていない。誰が、ここに入れたのか、偶にある誰かの悪戯なのかもしれない。

 私は怪談や心霊事件を専門に扱うライターで、職業柄その手の情報には慣れている。匿名のタレコミや古い郷土誌の切れ端など、集まってくる資料を机の上に積んでは読み込んできた。

 だがその封筒は、最初から異質だった。紙は湿り、赤黒い染みが浮かび、指にぬめりを残した。

 中には若い女の丸い筆跡の紙片、大人の几帳面な日記、役場の記録用紙、いくつもの異なる筆跡が混ざり合っていた。寄せ集められた紙はどれも湿り、同じ匂いを放っていた。

 私は机に広げ、一枚ずつ読み進める。そこに記された言葉は、恐怖の叫びではなく、氷に閉じ込められたように冷たい記録だった。

 やがて私は、自分でも裏付けを探すようになった。郡役場の報告書、診療所のカルテ、村から離れた住民の証言。古書店で見つけた郷土誌には「肉ゑ神」と記され、大学紀要の片隅には“蓋”の儀式についての論文が残されていた。どれも同じように湿り、同じ冷たさを帯びている。

 封筒に入っていたものと、私が集めたもの。その境は曖昧になり、やがて区別がつかなくなっていった。

 ――以下に記す断片は、封筒に入っていた紙片、及び私が収集した関連資料である。