翌日。
 菜乃は父親(三条秋彦)に呼び出されて和室へと足を運んだ。

三条菜乃「失礼します。菜乃です」

 和室の障子越しにそう名乗れば、父親の「入ってこい」と言う声が聞こえた為、菜乃は障子をゆっくりと横にスライドして開けてから、和室へと足を踏み入れる。

○三条家・和室

三条結月「お姉様、遅かったですわね」

 和室へと入るなり、先に来ていた妹の結月から冷たい口調で一言そう言われたがそれに対して返事を返さず結月が座っている隣に置かれた茶色い座布団の元まで歩み寄り、座布団の上に腰を下ろす。

三条秋彦「今日、お前達、二人を呼び出したのは伝えなければならないことがあったからだ」
三条結月「伝えなければならないことですか?」

 結月が父親の秋彦に問いかけると秋彦は頷き返してから話し始める。

三条秋彦「ああ、結月、お前の縁談相手が決まった。縁談相手は名家。如月家のご子息だ」

 如月家。
 三条家と同じく異能の家系である。
 しかし、三条家とは違い、如月家は複数の異能を持つ異能の家系だ。

 菜乃が異能を持っていたら縁談は結月ではなく、菜乃にきたであろう。
 しかし、異能を持たない菜乃には縁談などくるはずもない。

三条結月「わかりました。お父様、私、頑張りますわ!」
三条秋彦「ああ、期待している」

 菜乃は結月と父親を見ながら、一体、何故、自分は呼び出されたのだろう?と思い始めていた。
 
三条秋彦「そして、菜乃、お前には縁談まで結月を支えて欲しいんだ」
三条菜乃「支えるとはどういったことをすれば良いのでしょうか?」

三条菜乃(正直、結月を支えるなんてことはしたくない。今まで暴言を吐かれたり、暴力を振ってきた相手を支えるなど私にはできない……)
 
三条菜乃「大変、申し訳ございませんが、私には出来ません。いくら妹でも今まで私に沢山の暴言吐き、暴力を振るってきた相手を支えるのは無理です」
三条秋彦「そうか、では、お前はあの部屋に隔離されたままで良いのだな?」

三条菜乃(私を離れにある建物に隔離しているのは私が身体に毒を持っているからだ。
 今ここで支えると言って、結月を支えた所で私があの部屋から一人で外に出ることはこの先も決して許されはしない)

三条菜乃「構いませんよ。では、失礼致します」

 菜乃は父親(秋彦)からの問いに答え、会釈してから座布団から立ち上がり、和室を後にした。
 背後から結月の呼び止める声が聞こえた気がしたが反応なんてするわけがない。

三条菜乃「はぁ、疲れたわ……」

部屋へと続く廊下を歩きながら、窓から見える晴れた空を見上げればゆっくりと流れる白い雲が菜乃の青い瞳に映る。

異能を持たない菜乃は三条家の恥である。
そんなわかりきっている現実を再び突きつけられたみたいで菜乃の気持ちは沈む。

三条菜乃「はぁ……」

 静かな廊下を歩きながら私は再びため息をつき、足早に部屋へと向かった。