〇三条家のリビング・朝

三条菜乃(いつも通りの穏やかな朝。
 けれど、私にとっては穏やかではいられない朝だ)

三条結月「ちょっと、お姉様、このお茶熱いのだけど。私、冷たいお茶じゃないと飲めないの知ってるわよね?」

 居間にて朝食を取っている両親の向かい側に座っていた菜乃の妹の 結月(ゆづき)は白いカップに入れられているお茶を一口飲むなり、ようやく朝食を取れると一息つき、箸を持った菜乃を睨みつける。

三条菜乃「ごめんなさい。それ、お父様の方のお茶です」
三条結月「はぁ、本当にお姉様は無能ね。次、同じことしたら許さないから」

 菜乃を睨みつけてそう言ってきた結月の言葉に菜乃は反応せず、目の前にある茶色い机の上に置かれている朝食を食べ始めたのであった。



 異能者の家系である三条家。
 三条菜乃はそんな三条家の長女である。

 腰まである茶髪の髪が春の穏やかな風によってさらさらと揺れる中、菜乃の青い瞳に青白く澄んだ晴れた空の色が映る。

○帝都 昼過ぎ

三条菜乃「良い天気ね」

 菜乃は今、母親(三条佳乃)頼まれて侍女の彩芽と共に帝都へと訪れていた。

彩芽「そうですね。あ、菜乃様、あれ見てください!」
三条菜乃「あれって?」
彩芽「あそこにあるお店。つい最近、開店したばかりのカフェらしいんですけど。パフェが凄い美味しいみたいなんですよね」

 侍女の彩芽が指差した先にある白と淡いピンク色の建物(お店)に菜乃が目を向けると、お店の前にはちらほらと並んでいる人達がいた。

三条菜乃「もしかして彩芽、行きたかったりする?」
彩芽「え? あー、まあ、行きたいなとは思いますけど。今は菜乃様との買い物途中なので!」
三条菜乃「そうなのね」

三条菜乃(彩芽は幼い頃から私の身の回りのお世話してくれている侍女だ。私が異能を持たないと知ってからも態度を変えることなく、今までと同じように接してくれている彩芽は私にとって唯一の心の支えだった)

三条菜乃「じゃあ、買い物終わったら行きましょうか」
彩芽「え? いいんですか!?」
三条菜乃「ええ、私もそのパフェ食べてみたいわ」
彩芽「嬉しいです! じゃあ、早く買い物済ませてしまいましょうね!」

 嬉しそうな笑みを浮かべる彩芽を見て、菜乃は優しく笑い頷き返す。

三条菜乃「ええ、そうね」

 春の穏やかな風と陽の光を感じながら、菜乃は彩芽と共に目的の場所へと歩みを進めた。