「北の聖域へ……」
エルミナは森の出口で立ち止まり、遠くの山々を見つめた。
「そこには古代エルフの結界があります。教団の追跡から逃れる唯一の道です」
航希は頷いた。「遠いのか?」
「徒歩で三日ほど……ですが途中にいくつかの村や町を通過する必要があります」
エルミナが地図を広げる。「まずはここ……小さな村『ウィンドミル』を目指しましょう」
「ウィンドミルか。名前は可愛いけど安全なのか?」
「分かりません……最近は治安が悪いと聞きます。用心が必要です」
エルミナの言葉に航希は緊張感を覚えながらも頷いた。「分かった。行こう」
二人は北へと歩き出した。緑豊かな草原を抜けると、夕暮れ時には最初の村『ウィンドミル』が見えてきた。
「あれが……」
石造りの低い塀に囲まれた小さな村。煙突からは薄紫色の煙が立ち昇っている。どこか郷愁を感じさせる風景だ。
「一旦休憩しましょう。食料も調達しなければ……」
エルミナが提案するが、航希は警戒を怠らなかった。「気をつけろ。ここも教団の手が及んでるかもしれない」
慎重に村に入る。家々は古びているが手入れが行き届いており、人々は親切だった。
「旅の方かい?気をつけてね」
老婆が果物を差し出してくれる。
「ありがとうございます……」
安堵したのも束の間、市場で買い物をしていると背後から鋭い視線を感じた。航希は素早く振り返るが、黒装束の人物が角を曲がっていくところだった。
「エルミナ!」
航希が叫ぶと、彼女はすでに気づいていたようで頷いた。
「宿に戻りましょう。そして今夜中に村を離れるべきです」
夜になり、二人は宿の一室で計画を練った。
「奴らはいつでも襲って来るつもりだな」
航希が窓の外を見つめる。暗闇の中で微かな気配が動き回っているのが分かる。
「でもどうやって突破するんだ?数が多いだろうし……」
エルミナが真剣な表情で指輪を見つめた。
「航希さん……指輪の『防壁生成』能力を使ってみてはどうでしょうか」
航希は指輪を凝視した。「あれか……まだ慣れてないけど」
「大丈夫です。私を守ってくれた時のように……あなたの意思で発動できます」
航希は深呼吸をして指輪に意識を集中した。脳内に浮かぶ複雑な図形……それらが頭の中で絡み合い、形となっていく。
「行くぞ。ふっ」
パァン!!
青白い光と共に、半透明の障壁が部屋全体を包み込んだ。同時に外で悲鳴が上がる。
「うわ!何だこれは!」「くそっ……抜け出せない!」
教団の兵士たちが障壁に阻まれ混乱している様子が窓越しに見えた。
「成功しました!航希さん!」
エルミナが目を輝かせて航希を見る。
「まだだ。これを維持しながら突破するしかない」
航希は障壁を固定しつつ扉を開けた。周囲には十人以上の黒装束の兵士たちが集まっている。
「おのれ……運命の器め!」
一人の兵士が剣を構えて突進してくる。航希は反射的に指輪に念を送った。
バリーン!
兵士の剣が障壁に当たると同時に弾かれ、彼はバランスを失って倒れた。
「退け!退却だ!」
指揮官らしき男が指示を出すと、教団兵たちは煙幕を放ちながら撤退していった。
「やった……のか?」
航希が膝をつくと同時に障壁も消滅した。疲労感が全身を襲う。
「航希さん!」
エルミナが慌てて抱きかかえる。その柔らかな感触と温もりに航希は少し戸惑った。
「大丈夫だ。ちょっと疲れただけ……」
「無理しないでください……航希さんは私にとって……大切な人なんですから」
エルミナの声が震えていることに気づき、航希は彼女の背中を軽く叩いた。
「心配するな。俺もお前を守るから」
二人は再び北への旅を続けることを決意した。しかしこの時、彼らはまだ知らなかった。深淵教団が次にどんな手を打ってくるのかを……
エルミナは森の出口で立ち止まり、遠くの山々を見つめた。
「そこには古代エルフの結界があります。教団の追跡から逃れる唯一の道です」
航希は頷いた。「遠いのか?」
「徒歩で三日ほど……ですが途中にいくつかの村や町を通過する必要があります」
エルミナが地図を広げる。「まずはここ……小さな村『ウィンドミル』を目指しましょう」
「ウィンドミルか。名前は可愛いけど安全なのか?」
「分かりません……最近は治安が悪いと聞きます。用心が必要です」
エルミナの言葉に航希は緊張感を覚えながらも頷いた。「分かった。行こう」
二人は北へと歩き出した。緑豊かな草原を抜けると、夕暮れ時には最初の村『ウィンドミル』が見えてきた。
「あれが……」
石造りの低い塀に囲まれた小さな村。煙突からは薄紫色の煙が立ち昇っている。どこか郷愁を感じさせる風景だ。
「一旦休憩しましょう。食料も調達しなければ……」
エルミナが提案するが、航希は警戒を怠らなかった。「気をつけろ。ここも教団の手が及んでるかもしれない」
慎重に村に入る。家々は古びているが手入れが行き届いており、人々は親切だった。
「旅の方かい?気をつけてね」
老婆が果物を差し出してくれる。
「ありがとうございます……」
安堵したのも束の間、市場で買い物をしていると背後から鋭い視線を感じた。航希は素早く振り返るが、黒装束の人物が角を曲がっていくところだった。
「エルミナ!」
航希が叫ぶと、彼女はすでに気づいていたようで頷いた。
「宿に戻りましょう。そして今夜中に村を離れるべきです」
夜になり、二人は宿の一室で計画を練った。
「奴らはいつでも襲って来るつもりだな」
航希が窓の外を見つめる。暗闇の中で微かな気配が動き回っているのが分かる。
「でもどうやって突破するんだ?数が多いだろうし……」
エルミナが真剣な表情で指輪を見つめた。
「航希さん……指輪の『防壁生成』能力を使ってみてはどうでしょうか」
航希は指輪を凝視した。「あれか……まだ慣れてないけど」
「大丈夫です。私を守ってくれた時のように……あなたの意思で発動できます」
航希は深呼吸をして指輪に意識を集中した。脳内に浮かぶ複雑な図形……それらが頭の中で絡み合い、形となっていく。
「行くぞ。ふっ」
パァン!!
青白い光と共に、半透明の障壁が部屋全体を包み込んだ。同時に外で悲鳴が上がる。
「うわ!何だこれは!」「くそっ……抜け出せない!」
教団の兵士たちが障壁に阻まれ混乱している様子が窓越しに見えた。
「成功しました!航希さん!」
エルミナが目を輝かせて航希を見る。
「まだだ。これを維持しながら突破するしかない」
航希は障壁を固定しつつ扉を開けた。周囲には十人以上の黒装束の兵士たちが集まっている。
「おのれ……運命の器め!」
一人の兵士が剣を構えて突進してくる。航希は反射的に指輪に念を送った。
バリーン!
兵士の剣が障壁に当たると同時に弾かれ、彼はバランスを失って倒れた。
「退け!退却だ!」
指揮官らしき男が指示を出すと、教団兵たちは煙幕を放ちながら撤退していった。
「やった……のか?」
航希が膝をつくと同時に障壁も消滅した。疲労感が全身を襲う。
「航希さん!」
エルミナが慌てて抱きかかえる。その柔らかな感触と温もりに航希は少し戸惑った。
「大丈夫だ。ちょっと疲れただけ……」
「無理しないでください……航希さんは私にとって……大切な人なんですから」
エルミナの声が震えていることに気づき、航希は彼女の背中を軽く叩いた。
「心配するな。俺もお前を守るから」
二人は再び北への旅を続けることを決意した。しかしこの時、彼らはまだ知らなかった。深淵教団が次にどんな手を打ってくるのかを……
