星みたいな君との淡い夏

 「えっと…誰?」
 僕は今、屋上で知らない人と二人っきりで見つめ合っている。相手は綺麗な目に、整った顔立ちで艶のある茶色いショートヘアの女性だった。
 「こんばんは!私は星野 あかり!星と明るさを組み合わせてこの名前だよ!」
 名前の通りにすごい明るい人で、彼女の笑う顔は今日の夜に浮かぶあの一つの星みたいだ。珍しく僕は可愛いなと思う。普段は誰かに関心を持つことはなく、どれだけ周りが可愛いや好きと言おうが惹かれることもなかった。
 「夜の屋上なんかになんできたんですか?それとも何か用…ですか?」
 いつもの自分のように必要最低限で会話を収めようとする。でもその声は自分のいつもの声よりもよっぽど暗い声だったらしい。
 「冷た!それを言ったら君もでしょ!初めましてでこんな暗い声出されたの初めてだよ。あと質問する前に、まず名を名乗って欲しいな〜!せっかく出会えたんだからお友達になりたいしさ!」
 「これが普通なので」
 二人の間に沈黙が流れる。僕は人とほとんど接しないためにすぐに会話終わらせている。
 「ごめん…そんなに嫌だったかな…」
 さっきまで元気よく笑っていた顔が犬の尻尾が下がる時のような彼女はどこか寂しさを感じる顔で、少し言葉が強かったと後悔する。
 「あ…いやそんなことはないんですけど、えっと、名前?僕の名前は八宵 天音…です」
 罪悪感に飲まれつい名前を言ってしまった。愉快な人、陽キャと言われる人たちとは関わりを大きく持つのはめんどくさくなるのがわかりきっているからなるべく避けてきた。ただ今回は残念ながら関わりを持ってしまった。すぐに終わってほしいと祈るばかりだ。
 「天音君か…なるほど。うん!いいじゃん!」
 「これで満足ですか?」
 「そこはありがとうでしょ!」
 彼女はもちろん満足というように頷く。彼女は楽しそうに笑う。夜風に吹かれる風が彼女の髪を強く揺らす。
 「あんなに冷たいから名前聞けないかと思ったよ!じゃあお返しに何をしていたか教えてしんぜよう」
 「あ、ありがとうございます」
 「うん!それで、何をしていたかなんだけど転校してきてさ、明日から登校するのはなんだけど色々書類とかを取りに来てて、そしたら夜遅くなっちゃった!せっかくなら屋上からの景色を見ようかなって気になってきたんだけど、そしたらたまたま君がいたってわけ!」
 「この時期に転校だなんて珍しいですね。」
 「ちょっと色々あってさ!しかたないことではあるんだけどもね!」
 祈りは届かず話が絶えずに続く。一話せば倍で返ってくる。ただ声はとても聞き取りやすく、綺麗に透き通って耳に届く。そのおかげか返しやすさはあるが大変だなとも思う。普段から会話をしない僕とは大違いだ。転校前は話しやすい性格に容姿も含めて人気者だったんだろうと考えさせられる。
 「それで、私が答えたんだから天音君も答えるべき!」
 「僕のことを聞いて何になるって言うんです 
 はぁとため息混じりの声で僕は返答する。早く終わりたくて一言でしか話してないのになかなか終わらない。ただ答えてもらって質問を返さないのもまた失礼だから仕方ない。
 「僕は、ただ空を眺めてただけです。夜の空は星が綺麗なので好きなんです」 
 それを聞いた彼女は少し黙った後、へ〜!いいじゃん!とリアクションをしながら歩き出し、僕の隣に並ぶ。そうして空を見回した後、彼女が2つ並んで輝く星を指差す
 「あそこにある星さ、二つだけ他に比べて輝いてるじゃん!あれ今の君と私みたいじゃない?」
 「今の私と君ですか?」
 「うん!だって今この屋上には私たち二人並んでるでしょ?あの星も今並んでるから似たもの同士じゃん!」
 「似たもの同士…と言われましても星は輝いているんですよ?星野さんは輝いていても僕なんかは輝いていないです」 
 この場で輝いているのは彼女だけだ。あの二つ並ぶ星のように輝いてはいない。今の僕は彼女に引っ張られているだけ。
 「そう?私には全然そうは見えないけどな!君は全然輝いてると思うよ!」
 「僕なんかが輝けるわけないんですよ。僕はいつも一人でクラスの端っこにいるだけです。そんな僕があなたと並んだだけで輝くなんてことはないんです」
 普段クラスで会話もしない僕が輝けるなんてことはない。今人と話したのが久しぶりだという僕に一人誰か来たからなんだっていうんだ。僕が輝くわけじゃないのに。たとえ、小さな輝きが出たとしても他にかき消されてて終わってしまう。
 「暗いなぁ天音君。人なんていくらでも可能性があるのにさ!」
 「僕に、僕なんかに可能性なんてないですよ」
 「そうかなぁ。私はそれがよく理解できないけど」
 「僕とあなたは真反対なので理解されても困ります」
 自嘲気味に笑うことしかしない僕を見ると彼女は黙り込んでしまった。ずっと陰で生きていた僕に可能性があると言ってくれたことは嬉しいが、それよりも僕という存在を初めて知ったのだから、そういう人なんだと思って諦めてほしい。変わるわけがないんだから
 少しの間、だんまりとしていた時がすぐに過ぎ、彼女が口を開く。
 「じゃあさ、君が輝けるように私と明日からいろーんなことをしよう!」
 「は?」
 「そうしたら、きっと君は自分が輝いているって思うよ!」
 彼女はさっきまで口を閉じて少し暗くなっていたとは思えないほどの笑顔で言葉を発していた。
 「君はきっと自分は可能性なんてないんだとずっと思って生きてきたんでしょ?じゃあ一度チャレンジしてみようよ!どうせ胡散臭いとか思ってるんだろうけどそこは安心してほしい!私が保証する!」
 「…なんで星野さんはそこまでして僕に構うんですか。初対面でまだほとんど関わってもいないのに」
 「秘密!」
 彼女は笑って階段へと駆けていく。そして腕を広げてこちらを見る。
 「星みたいにたくさんある可能性をもっともっと輝かようよ!きっといいことがたくさんあるからさ!」
 「正直信じたくはないんですけど…」
 「大丈夫!私がいるから!だから明日からよろしくね天音君!」 
 そう言って自由な彼女は階段を降りていった。
 別に了承したわけじゃないんだけどな…と心の中で思う。けれどもどこかに少し期待している自分がいた。
 「星野あかり…か」
 ポツリと名前を呟いていた。彼女の言葉が頭から離れない。もし輝けたらどうなるのだろうか。僕は少し考えていた。