鬼の国の城内へと入った私は金髪の青年に案内されて鬼の国の王がいる玉座の間の前へと辿り着く。
 金髪の青年の手によって玉座の間の重々しい鉄板を木製の扉が開かれ、私はそっと扉の中へと足を踏み入れた。

「蒼史よ、此処までの案内ご苦労であった。下がれ」

 私が玉座の間へと足を踏み入れるなり、目線の先にある頭に鬼の角が二つあるこの国の王であろう黒髪に青い瞳の男は、私の背後、玉座の間の扉を開いた金髪の青年にそう告げた。

「承知致しました。では、失礼致します」

 金髪の青年は王に返答してから、玉座の間の扉をゆっくりと閉める。
 私は目の前にいる男――
 この鬼の国【神月(かみつき)】の王である人物を見据えた。

「お前はもう少しこちらに来い」

 黒髪に青い瞳を持ち、玉座の椅子に座りながら私をじっと見つめてから鬼の国の王である男はそう私に告げた。

「わかりました」

私は緊張と不安で震えそうになる足に力を入れて何とか震えを抑えながらこの鬼の国の王である男の前へと歩み寄る。

「名は何という?」
「神坂美月と申します」
「神坂美月か、良い名前だな。私の名前は永和という」

 『永和(とわ)』──
 そう名乗った目の前の王は表情一つ変えることなく、こちらをじっと見下すように見ていた。

 そんな王《永和(とわ)》の青い瞳は冷たく、私はその瞬間、嫌でもわかってしまった。
 私は歓迎されていないのだと。
 この婚姻は和平の為に結ばれた政略的な物であり、私とこの王《永和(とわ)》との間に愛が成り立つことはきっとないのだろう。

 わかっていた。
 わかっていたことであるはずなのに何故、こんなにも悲しいと思うのだろうか。
 今の私には悲しいと、そう思った理由がわからなかった。

「私は何とお呼びすればよろしいでしょうか?」
「永和でいい」
「わかりました。では、永和(とわ)様と呼びますね」
「ああ、私は美月と呼ばせてもらう」
「わかりました。では、これから何卒、よろしくお願い致します」

 私は永和(とわ)様に深々と頭を下げた。
 これから私はこの国で生きていかなければならない。鬼の王の妻として。
 
 不安と恐怖。
 そんな思いでさえ、強さに変えていかなければ弱い私は何処かで壊れてしまいそうだ。

「ああ、こちらこそ」

 顔を上げれば、永和(とわ)様の冷たい青い瞳と目が合った。顔色一つ変えない目の前の王を見据えて、私は不安と恐怖に押し潰されないくらい強くならなければと自分自身に言い聞かせた。