私と永和様。
そして永和様の護衛である蒼史様。
私達三人が夏祭りが行われている王都へとやって来てから数時間程が経った頃。
昼食を食べようと入ろうとした和食のお店の前で一人の少年が俯きながら泣いているのが目に入ってきた。
「おい、少年、どうした?」
永和様は繋いでいた私の手をそっと離してから、俯いて泣いている少年の前へと歩み寄り、少年と同じ目線になるように屈んだ。
「う……、お母さんと…… はぐれちゃって……」
「なるほど。迷子か」
永和様はそう言うと隣にいた私を見て申し訳なさそうに口を開く。
「美月、申し訳ないが昼食の前にこの少年の親を探すのに付き合って貰ってもいいか?」
「勿論、構いませんよ」
私がそう返すと永和様と私の背後に立っていた護衛の蒼史様も返事を返す。
「私も付き合います」
「ああ、ありがとう二人共」
そして私達は迷子になった少年の母親を探すべく再び鬼人が行き交い賑わう王都の街並みを歩き始めた。
「少年、名は何と言うんだ?」
「僕の名前は大和っていうよ……!」
大和と名乗った少年は永和様の手を繋いで歩きながらそう永和様に返した。
「そうか、では、大和。お前の母親はどんな髪色で瞳の色をしている?」
「僕のお母さんの髪色はね、綺麗な青で、瞳の色は紫だよ!」
「ふむ、なるほど。わかった」
「うん……!」
そんな永和様と大和と名乗った鬼の少年のやり取りを護衛の蒼史様の横を歩きながら見ていた私は思わず笑ってしまう。
「ふふ、永和様、子供の前でもいつもと変わらない口調ですね」
「そうてすね、永和様はああみえて子供が結構、お好きなのですよ」
「そうなんですね」
以外な永和様の一面をまた一つ知れたことを嬉しく感じながら、私は永和様とその隣を歩く鬼の少年の背後を歩きながら見守るように見ていた。
鬼の少年の母親を探して王都の街並みを歩いていた私達は王都に立ち並ぶ建物の一つ。
王都の左側の道に建っている着物屋の前にいた鬼の少年が言った母親の容姿と一致している女性を見つける。
「お母さん……!」
鬼の少年は着物屋の前に立っていた白髪で紫の瞳をした女性を見てから繋いでいた永和様の手を離し、母親の元へと走って行く。
「大和……! 探していたのよ。もう、勝手に何処か行かないでちょうだい……」
「うん、わかったよ、ごめんね、お母さん」
「ええ」
「あのね、お母さん、あそこにいる人達がお母さんを一緒に探してくれたんだ」
鬼の少年はそう言って、私達の方を指差した。
鬼の少年の母親は私達を見てから、鬼の少年の手を引いて私達の元まで歩み寄るなり頭を下げてくる。
「本当にありがとうございます……! 感謝してもしきれません。何かお礼をさせて下さい」
「頭を上げてくれ、私達は大それたことはしていない。お礼は気持ちだけで十分だ」
永和様は鬼の少年の母親にそう告げると、鬼の少年の母親は顔を上げて永和様を見る。
「ですが……!」
「善意でやったことだ。おい、大和、もう母君と離れるでないぞ」
「うん、わかったよ! ありがとう、お兄さん」
「本当にありがとうございます。あの、せめてものお礼としてこれだけでも受け取って下さい」
鬼の少年の母親がそう言い、肩にかけていた茶色い鞄から何かを取り出して、永和様に手渡す。
「これは?」
「これは王都の和菓子屋で先程、買ったお菓子です。お口に合うか不安ですが……」
母親はそう言い心配そうな顔をする。
永和様はそんな母親を見て頷き返した。
「後で食べようと思う。では、失礼する」
永和様は目の前にいる鬼の少年と母親に会釈をしたのを見て、私と蒼史様も会釈をする。
そして私達はその場を後にしたのであった。
再び来た道を戻りながら、私の横を歩く永和様の方を見ると永和様もこちらを見ていたようで目が合う。
「永和様は優しいですね」
「そうか?」
「はい、そういう所も好きです」
「なっ…… 不意打ちは心臓に悪いな」
「ふふ、」
そんな私と永和様の背後を歩きながら聞いていた蒼史様の優しげに呟いた声が後ろから聞こえてくる。
「本当にお二人はお似合いです」
私はそんな蒼史様の言葉に胸に温かくなる。
繋いでいる永和様の手の温もりを感じながらこれからもずっと永和様の側にいたいとそう強く思った。


