長きにわたり"人"と"鬼"は敵対してきた。
 しかし大戦の末、和平のために結ばれた一つの政略。それが、【人の姫】と【鬼の王】の婚姻だった。

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 凛蘭王国(りんらんおうこく)
 海からなる広大な国土を持つ大国だ。
 私はそんなこの国の第一王女である。


 早朝。
 いつもより早く目が覚めてしまった私は自室の窓を開けて、心地良い朝の空気を感じていた。

「気持ちいい風ね」

 窓から見える外の風景を見ながら、私は昨日のことを思い出し始める。


『美月、お前には鬼の国の王の元に嫁いでもらう』

 凛蘭王国の国王であり、私の父親でもある久遠(くおん)から呼び出された私が玉座の間に着き、国王(久遠)が座る席の前へとやって来るなり、私は陛下からそう告げられた。

『鬼の国にですか……?』
『ああ、そうだ』

 鬼が住まう鬼の国【神月(かみつき)
 かつては人と敵対していた鬼であったが、和平の条約として長きに渡り、人の国の姫が鬼の王の元へと嫁ぐ。ということで平和は保たれていた。

 正直、和平の条約であったとしても、嫁ぎたくないと思ってしまう。だって、私には思いを寄せている人がいるからというのが私の本音であるが、そんなことは口が裂けても言えないので、私は『わかりました』と頷くしかなかった。


「今日は明日の準備で忙しくなりそうね」

 明日、私は鬼が住まう鬼の国【神月《かみつき》】の王の元へと嫁ぐ為、この凛蘭王国を出る。

 不安と恐怖は勿論あるが、この婚姻によって、鬼と人の国の平和は保たれているのだ。
 
 私が王族として生まれてしまった以上、この婚姻を拒否することなど私には出来ない。
 私が好きだと思う人とは結ばれることはないのだから。

 そんなことを思いながら、私が窓から見える風景を見ていると、朝の心地良い風にやって、そこまで離れていない目に前にあったピンク色に色付いた桜の木が揺れた。

 吹いた風によってひらひらと桜の花びらが舞い落ちる。
 
「綺麗ね……」

 私は舞い落ちる桜の花びらを見つめながら、朝の空気が入り込む部屋で一人呟いた。