灰色の世界の中で、しかめっ面の湖雪さんを悠さんは愛おしそうに見つめていた。
相変わらずいちゃいちゃしているふたりを遠くから眺め、どうかずっと幸せに過ごしてください、とほんの少し胸を痛めながら、そう祈る。
「素敵な大人になれる素質がふたりにはあるから、仮に多少道を踏み外したとしても、おばあさまが正しい道へと連れ戻してくれるはずです」
「その通りよ。あとはばあちゃんがふたりを守るわ。芽深ちゃんは肩の力を下ろして、ゆっくり休んでね」
「あれ、おばあさまの声がどこからか聞こえてくる。おばあさまはどこにいるのですか、姿を見せてください」
急におばあさまの声が聞こえて驚きつつ、何度も姿を見せてほしいと話しかけているのに、おばあさまは現れない。
「ごめんねぇ。芽深ちゃんの夢の世界にばあちゃんは登場できないみたい」
「そうなんですか?」
「そうみたいなのよ」
「あの、おばあさま」
「なぁに芽深ちゃん」
「悠さんと湖雪さんだけではなく、晴都のこともよろしくお願いします。今後一切悪さをしないように、晴都を𠮟ってやってください。彼が悪さをしなければ、イシアとヴェンデルが翼を失わずに済むので、幸せでいられるので」
「ふふ、了解しました。ばあちゃんが責任を持ってもう一度晴都を教育します。そしてばあちゃんからも芽深ちゃんに伝えたいことがあります」
「なんでしょうか」
「迷える乙女に良いこと教えてあげる。どんなに好きだった人の顔も、写真を見なければ自然に忘れていくものなの。人間の記憶力って驚くほどポンコツなのよ。どんなに好きでも、その人の顔も、その人の恋心も、次第に忘れていってしまうの。時間がすべてを解決してくれるわ。だから今は辛くても、きっと大丈夫よ」
「ありがとうございます、おばあさま」
「メイミィが新しい恋に出会ったら、そのときは僕達が恋のキューピットとなって全力で応援するから。ね、ヴェンデル!」
「うん。メイミィがもう一度恋をしたら、そのときは全力で応援するから。君にふさわしい素晴らしい相手が現れることを俺達は祈っているよ」
「あれ、ヴェンデルとイシアまで来てくれたの。やっぱり声だけで姿は見れないけれど……。でも、友達の声が聞こえてくるだけで幸せになれるね。ありがとう、ありがとう、みんな……」
おばあさま、ヴェンデル、イシア、ありがとう。私の心に寄り添ってくれて、ありがとう。
「みんな、私はもう大丈夫。失恋の痛みはまだ乗り越えられないけれど、この恋は諦める決心がつきました。だから、もう夢を見る必要はないんです」
この夢を見る必要はもうないのだと気づいたとき、墨汁を水で薄めた灰色の世界から色が生き返る。
モノクロ映画の世界は、カラー映画の世界へと瞬く間に変わる。
相変わらずいちゃいちゃしているふたりを遠くから眺め、どうかずっと幸せに過ごしてください、とほんの少し胸を痛めながら、そう祈る。
「素敵な大人になれる素質がふたりにはあるから、仮に多少道を踏み外したとしても、おばあさまが正しい道へと連れ戻してくれるはずです」
「その通りよ。あとはばあちゃんがふたりを守るわ。芽深ちゃんは肩の力を下ろして、ゆっくり休んでね」
「あれ、おばあさまの声がどこからか聞こえてくる。おばあさまはどこにいるのですか、姿を見せてください」
急におばあさまの声が聞こえて驚きつつ、何度も姿を見せてほしいと話しかけているのに、おばあさまは現れない。
「ごめんねぇ。芽深ちゃんの夢の世界にばあちゃんは登場できないみたい」
「そうなんですか?」
「そうみたいなのよ」
「あの、おばあさま」
「なぁに芽深ちゃん」
「悠さんと湖雪さんだけではなく、晴都のこともよろしくお願いします。今後一切悪さをしないように、晴都を𠮟ってやってください。彼が悪さをしなければ、イシアとヴェンデルが翼を失わずに済むので、幸せでいられるので」
「ふふ、了解しました。ばあちゃんが責任を持ってもう一度晴都を教育します。そしてばあちゃんからも芽深ちゃんに伝えたいことがあります」
「なんでしょうか」
「迷える乙女に良いこと教えてあげる。どんなに好きだった人の顔も、写真を見なければ自然に忘れていくものなの。人間の記憶力って驚くほどポンコツなのよ。どんなに好きでも、その人の顔も、その人の恋心も、次第に忘れていってしまうの。時間がすべてを解決してくれるわ。だから今は辛くても、きっと大丈夫よ」
「ありがとうございます、おばあさま」
「メイミィが新しい恋に出会ったら、そのときは僕達が恋のキューピットとなって全力で応援するから。ね、ヴェンデル!」
「うん。メイミィがもう一度恋をしたら、そのときは全力で応援するから。君にふさわしい素晴らしい相手が現れることを俺達は祈っているよ」
「あれ、ヴェンデルとイシアまで来てくれたの。やっぱり声だけで姿は見れないけれど……。でも、友達の声が聞こえてくるだけで幸せになれるね。ありがとう、ありがとう、みんな……」
おばあさま、ヴェンデル、イシア、ありがとう。私の心に寄り添ってくれて、ありがとう。
「みんな、私はもう大丈夫。失恋の痛みはまだ乗り越えられないけれど、この恋は諦める決心がつきました。だから、もう夢を見る必要はないんです」
この夢を見る必要はもうないのだと気づいたとき、墨汁を水で薄めた灰色の世界から色が生き返る。
モノクロ映画の世界は、カラー映画の世界へと瞬く間に変わる。
