『ラズベリーケーキのように華やかな見た目の青年にご注意ください。もしも彼と出会ってしまったら、目を合わせないですぐに逃げましょう』
彼を見た瞬間、まず背中に激痛が走り、つぎにいつの日かラジカセから聞こえてきた、女性アナウンサーの透き通る声が頭に浮かんだ。
今、僕の視線の先には、日に焼けた茶色の髪がきらきらと輝やくラズベリーケーキのような美青年と、その美青年に蹴り飛ばされている僕の友達がいた。
僕の友達を、あの男から助けないと――!
一刻も早く蹴り飛ばされている友達を助けなくちゃいけない。頭ではそう思っているのに、足が震えて身体に力が入らない。身体に力が入らないのなら、声を出さなきゃいけないというのに、声が出ない。
声を出せ、声をなんとしてでも出せ、出さなきゃあの男から僕の大切な友達を助けることができないんだ。
声が出るよう喉にありったけの力を込める。しかし口から出るのは声ではなく荒い息だけだった。
「メイミィを助けるぞ」
友達が絶体絶命のピンチだというのに恐怖により声が出ないことに絶望する僕の背中に、大きくて温かい手のひらが触れる。
隣りにいる相棒が優しく背中を撫でてくれたのだ。
「大丈夫だ」
相棒は僕が声を出せることを信じて、「大丈夫だ」と言う。
うん。君が言うならきっと大丈夫なんだ。
君の声を聞くと、僕の中の恐怖心は少しずつ薄れていく。
