倉元は、ただ、天井を見上げていた。
あのポスターが貼られてから、一か月がたった。
倉元は、今、街で起きているカオスな状態に気づいた。そして、理解した。
「あのポスターはただのいたずらではない」と。
死へ導くポスターが貼られてから、街は一変した。自殺が一気に増えたのだ。
これまでは、年に二件ほどだった、自殺事件。それが、ポスターが貼られてから、劇的に変わった。
毎日のように、通報がある。家族が行方不明になった、という通報や、死体を見つけた、という通報など。
行方不明になった人は、皆、見つかった。だが、その人はもう、生きていなかった。
森で餓死した人や、湖に飛び込んで発見が遅れた人。ビルの上から身を投げた人。自室で、首を吊っていた人。
その死に方は、どれも残酷で、恐ろしくて、異様だった。
自殺した人の全員の手には、『あのポスターが握られていたのだ』。
ポスターは、あの一角だけに貼られたものだと思った。だが、街中の至る場所にあのポスターが見つかったのだ。
内容は全て同じ。そっくりそのまま、同じものがたくさん貼られていた。
そして、自殺した人は、全員そのポスターを握っていた。湖で見つかった人は、例外だと思われたが、数メートル離れた場所に、そのポスターが水に浮かんでいた。
毎日のように記者がインタビューをしに来る。
「あのポスターは、どうして貼られたのか」という質問や「誰が貼ったのか」という質問。
どの質問も、わからない、と答えるたびに、自分が可哀そうに思えた。
警察としての、不甲斐なさも感じた。とにかく、自分が情けなかったのだ。
だから、倉元は思った。自分で、あのポスターを張った犯人を見つけよう、と。
そして、一か月経った今でも、倉元は犯人を見つかられないでいた。手がかりすらなかった。
いや、あったのかもしれない。
ある日の事だった。コンビニのすぐそばに、ポスターが張られていたのだ。倉元はすぐにコンビニの防犯カメラを確認した。
だが、ヒトは写っていなかった。いや、ポスター『だけ』が写っていたのだ。
コンビニの客に聞いても、知らない、と言うし、近くに住んでいる人の目撃情報もない。
そして、殺人も一気に増えた。憎んでいた人を殺す怨恨殺人だけではなく、定期的に殺人を繰り返す、殺し屋のような者も増えた。
殺人犯に関しては、全員捕まった。地域の警察だけではなく、都会の方の警察署も加わって捜査したからだ。
「赤羽、あのポスター何なんだよ」
「倉元さん、俺に聞かないでくださいよ。わかりませんから」
赤羽は優秀な新人だ。自分より、優れた脳を持っている。そんな赤羽でも分からないような問題だ。
「でも、亡くなった方に、共通点がありますよね」
「全員がポスターを握っていた、という点だろ?それは俺も知ってる…」
「違います」
赤羽がぴしゃりと言い切った。ポスターを握っていた、という点以外はない気がするが。
「殺人事件が起きた日と、自殺があった日、すべて同じなんです」
森で餓死した笹川さんと、憎んでいた教師を殺した女子高生。日にちは8月10日。一致する。
ビルの上から身を投げた有田さんと、彼女を殺した大学生。日にちは8月12日。一致する。
そして、その後も、ファイルを確認すると、自殺が起きた日と殺人事件が起こった日、その日にちがすべて一致した。
湖で発見された曽野さんに関しては、その日にちに殺人事件が起こった様子はないが、死体の様子から見ると、ずいぶん時間が経っているように見える。発見時間と死体の様子から時間を読み取り、計算すると、日にちが8月15日。
ちょうどその日に、街の郊外で殺人事件が起こっている。
曽野さんの事件に関しては、はっきりと言えないが、事実として、予想された死亡日に殺人事件が起こっている。
「赤羽、お前、天才だな」
「そうですね。私も自分が天才だと思います」
倉元には、その時、赤羽がふざけているように聞こえたが、赤羽の目を見て分かった。
彼は、怒っている。
「どうした、お前。理不尽に起こるような奴じゃないだろ?」
「倉元さん、なぜ重要な個所に気づいていないのですか?」
「え?」
思わず、裏返った声が出てしまった。赤羽が言っていたこととは、何のことなのだろうか。
「ごめん、赤羽。もう一回、自分で調べてみてもいいか?」
「倉元さん、俺は怒っていませんよ。倉元さんが自分で調べるなら、俺が教える方が早いです」
「ごめんな」
また、自分が情けなく感じた。ちっぽけな自分に比べて、赤羽はカッコいい人間だ。
「倉元さん、資料の最後まで読んでいませんね。見て下さい」
赤羽が資料を指さす。そこには、自殺が起こった場所と、殺人事件が起きた場所をそれぞれ記しているページがあった。
「じゃあ、森で亡くなった笹川さんのケースから言いますね。この森、どこにありますか?」
「えっと…。○○森林公園の一角だな。ん?何かがおかしいな。本来、自殺をするなら人目がない隠れた場所でするケースが多いのだが…」
「ええ。○○森林公園は子供も多く、人通りが多い大通りに面しています」
「じゃあ、すぐ発見される可能性が高い、ということだよな?」
「ですから、ここに書いてある時刻は、ほぼ明確、ということになります。」
赤羽が自殺をしたと思われる時間が書いてある資料を指さした。
「8月10日の午前11時頃、森林公園に遊びに行った親子が発見した、と書かれています。」
「気の毒だな。でも、午前11時頃って、アレだよな、人が多い時間だよな」
「ええ。そうです。子連れの親子も多いですし、散歩をしている人もたくさんいる。俺、行ってみたんですよね、○○森林公園。」
「行ったのか?」
赤羽の熱心な様子を見ると、自分が愚かに感じる。倉元はまた、落ち込んだ。
○○森林公園は行ったことがある。自然豊かでアスレチックなどもある、大きな公園だ。
「赤羽。この資料には書いてないが…笹川さんは、森林公園のどこで自殺をしたか分かるか?」
「いいえ。それは分からないです。聞いてみるのもいいかも」
「え?」
「第一発見者の親子にインタビューするのはどうですか?そうすれば分かるじゃないですか」
たしかに、その方法もあった。だが、事件の事情聴取は別の係が担っている。ここはあくまでも「捜査」する部であり、実際に足を運んで犯人を捕まえたりする係とは違うのだ。
倉元は巡査部長であり、警察署で働く者である。赤羽の方が若手だし、インタビューは赤羽がした方がしっくりくると思う。
人任せではなく自分の単純な気持ちだが、赤羽にとっては、倉元はめんどくさがり、と思われるかもしれない。
あのポスターが貼られてから、一か月がたった。
倉元は、今、街で起きているカオスな状態に気づいた。そして、理解した。
「あのポスターはただのいたずらではない」と。
死へ導くポスターが貼られてから、街は一変した。自殺が一気に増えたのだ。
これまでは、年に二件ほどだった、自殺事件。それが、ポスターが貼られてから、劇的に変わった。
毎日のように、通報がある。家族が行方不明になった、という通報や、死体を見つけた、という通報など。
行方不明になった人は、皆、見つかった。だが、その人はもう、生きていなかった。
森で餓死した人や、湖に飛び込んで発見が遅れた人。ビルの上から身を投げた人。自室で、首を吊っていた人。
その死に方は、どれも残酷で、恐ろしくて、異様だった。
自殺した人の全員の手には、『あのポスターが握られていたのだ』。
ポスターは、あの一角だけに貼られたものだと思った。だが、街中の至る場所にあのポスターが見つかったのだ。
内容は全て同じ。そっくりそのまま、同じものがたくさん貼られていた。
そして、自殺した人は、全員そのポスターを握っていた。湖で見つかった人は、例外だと思われたが、数メートル離れた場所に、そのポスターが水に浮かんでいた。
毎日のように記者がインタビューをしに来る。
「あのポスターは、どうして貼られたのか」という質問や「誰が貼ったのか」という質問。
どの質問も、わからない、と答えるたびに、自分が可哀そうに思えた。
警察としての、不甲斐なさも感じた。とにかく、自分が情けなかったのだ。
だから、倉元は思った。自分で、あのポスターを張った犯人を見つけよう、と。
そして、一か月経った今でも、倉元は犯人を見つかられないでいた。手がかりすらなかった。
いや、あったのかもしれない。
ある日の事だった。コンビニのすぐそばに、ポスターが張られていたのだ。倉元はすぐにコンビニの防犯カメラを確認した。
だが、ヒトは写っていなかった。いや、ポスター『だけ』が写っていたのだ。
コンビニの客に聞いても、知らない、と言うし、近くに住んでいる人の目撃情報もない。
そして、殺人も一気に増えた。憎んでいた人を殺す怨恨殺人だけではなく、定期的に殺人を繰り返す、殺し屋のような者も増えた。
殺人犯に関しては、全員捕まった。地域の警察だけではなく、都会の方の警察署も加わって捜査したからだ。
「赤羽、あのポスター何なんだよ」
「倉元さん、俺に聞かないでくださいよ。わかりませんから」
赤羽は優秀な新人だ。自分より、優れた脳を持っている。そんな赤羽でも分からないような問題だ。
「でも、亡くなった方に、共通点がありますよね」
「全員がポスターを握っていた、という点だろ?それは俺も知ってる…」
「違います」
赤羽がぴしゃりと言い切った。ポスターを握っていた、という点以外はない気がするが。
「殺人事件が起きた日と、自殺があった日、すべて同じなんです」
森で餓死した笹川さんと、憎んでいた教師を殺した女子高生。日にちは8月10日。一致する。
ビルの上から身を投げた有田さんと、彼女を殺した大学生。日にちは8月12日。一致する。
そして、その後も、ファイルを確認すると、自殺が起きた日と殺人事件が起こった日、その日にちがすべて一致した。
湖で発見された曽野さんに関しては、その日にちに殺人事件が起こった様子はないが、死体の様子から見ると、ずいぶん時間が経っているように見える。発見時間と死体の様子から時間を読み取り、計算すると、日にちが8月15日。
ちょうどその日に、街の郊外で殺人事件が起こっている。
曽野さんの事件に関しては、はっきりと言えないが、事実として、予想された死亡日に殺人事件が起こっている。
「赤羽、お前、天才だな」
「そうですね。私も自分が天才だと思います」
倉元には、その時、赤羽がふざけているように聞こえたが、赤羽の目を見て分かった。
彼は、怒っている。
「どうした、お前。理不尽に起こるような奴じゃないだろ?」
「倉元さん、なぜ重要な個所に気づいていないのですか?」
「え?」
思わず、裏返った声が出てしまった。赤羽が言っていたこととは、何のことなのだろうか。
「ごめん、赤羽。もう一回、自分で調べてみてもいいか?」
「倉元さん、俺は怒っていませんよ。倉元さんが自分で調べるなら、俺が教える方が早いです」
「ごめんな」
また、自分が情けなく感じた。ちっぽけな自分に比べて、赤羽はカッコいい人間だ。
「倉元さん、資料の最後まで読んでいませんね。見て下さい」
赤羽が資料を指さす。そこには、自殺が起こった場所と、殺人事件が起きた場所をそれぞれ記しているページがあった。
「じゃあ、森で亡くなった笹川さんのケースから言いますね。この森、どこにありますか?」
「えっと…。○○森林公園の一角だな。ん?何かがおかしいな。本来、自殺をするなら人目がない隠れた場所でするケースが多いのだが…」
「ええ。○○森林公園は子供も多く、人通りが多い大通りに面しています」
「じゃあ、すぐ発見される可能性が高い、ということだよな?」
「ですから、ここに書いてある時刻は、ほぼ明確、ということになります。」
赤羽が自殺をしたと思われる時間が書いてある資料を指さした。
「8月10日の午前11時頃、森林公園に遊びに行った親子が発見した、と書かれています。」
「気の毒だな。でも、午前11時頃って、アレだよな、人が多い時間だよな」
「ええ。そうです。子連れの親子も多いですし、散歩をしている人もたくさんいる。俺、行ってみたんですよね、○○森林公園。」
「行ったのか?」
赤羽の熱心な様子を見ると、自分が愚かに感じる。倉元はまた、落ち込んだ。
○○森林公園は行ったことがある。自然豊かでアスレチックなどもある、大きな公園だ。
「赤羽。この資料には書いてないが…笹川さんは、森林公園のどこで自殺をしたか分かるか?」
「いいえ。それは分からないです。聞いてみるのもいいかも」
「え?」
「第一発見者の親子にインタビューするのはどうですか?そうすれば分かるじゃないですか」
たしかに、その方法もあった。だが、事件の事情聴取は別の係が担っている。ここはあくまでも「捜査」する部であり、実際に足を運んで犯人を捕まえたりする係とは違うのだ。
倉元は巡査部長であり、警察署で働く者である。赤羽の方が若手だし、インタビューは赤羽がした方がしっくりくると思う。
人任せではなく自分の単純な気持ちだが、赤羽にとっては、倉元はめんどくさがり、と思われるかもしれない。



