「結生ちゃんはなんかこの人うざいなーとか思う人いないの?さすがに一人や二人はいるでしょー?ほら、あの隣のクラスのバレー部の子とか性悪って有名じゃん?」
やはり自分にも火の粉が飛んできたか、と気づかれぬように小さく肩を落とす。投げられたボールをキャッチしてしまったのだ。さっきまでは上手く避けられていたのに。
「ええ、いないよー」
下手なフォームでボールを投げ返す。必要最低限の言葉で返答する。余計なことを口にしてしまうと深堀されてしまいそうだった。
はっきり言ってこういう話題は苦手だ。そんなマイナスなことをわざわざ人に共有する必要性が果たしてあるのだろうか、と思う。それに本人の耳にこの話が入ってしまえば、それはそれで面倒くさいことになってしまう。女の子同士の喧嘩ほど面倒くさいものはないだろう。
何と返されるだろう。返答に怯えて、口元が自然とキュッときつく結ばれる。執念深く聞き出そうとするのだろうか。目を伏せて待つ。そうでもしないと、次の言葉が予想できてしまいそうで怖かった。
「私はいるよ」
この会話の輪に紛れる一人が口を開く。私の親友の美奈だ。彼女とは付き合いが長く、波長も合う。一番の親友と言っていいだろう。それくらいには仲が良い。
美奈の声に伏せていた目を彼女に向ける。周囲に映る皆の目が好奇の色に変わっていった気がした。客観的に見れば私もそのうちの一人で、大差ないように見えるのだろう。
しかし美奈とはそういった話題が出ることはなかったため気になることは否めない。こういった話題が苦手だと言いつつも、やはり女子特有のやつなのか、はたまた人間特有の悪いところなのか、気になってしまう。親友だから、なんてただの言い訳に過ぎない。そんな自分に矛盾を感じて、中途半端でやり場のない感情が湧き出る。
「ええ!誰なの?」
話題を一番最初に提示した子が先陣を切って尋ねる。明るい声色なのが、私には怖かった。
美奈は焦らすように勿体ぶって静かに息を吐き出す。周囲に緊張と焦燥が走る。うずうずと今か、今かと待ち焦がれるかのような様子だ。
美奈はこちらを一瞥した。その時に彼女と目が合って首を傾げたが、彼女は私との視線の交わりをなかったものとして、話の続きを切り出す。彼女の視線は私に戻る。
何を意味しているのか到底理解できなかった。美奈は私が目線でのやり取りだとか、言葉以外で意思疎通が下手くそな人間だとてっきり知り置いているものだと思っていたが、違ったのか。
一つの鋭い視線が私を縛る。口が動いて、上唇と下唇が触れ合って、口は閉ざされて動かなくなる。
「結生だよ」
「え……?」
状況を呑み込む前に戸惑いが溢れ出す。
状況が理解できない。だか、言葉だけは理解できた。私のことが嫌い、たったそれだけの必要最低限のことが脳で認識された。言葉だけが脳内に鎮座する。どこかへ去る気配はない。
「私は結生が憎くて嫌い」
「ちょっと、それはさすがにねえ?辞めなって」
言い出しっぺがその場の空気を壊さぬようにそれとなく制止するが、美奈は止める気配を見せない。私は何も言葉を返せないままでいる。
場の空気を気にするくらいならこんな話題を初めから持ち込まないでほしかった、と思った。
脳内で美奈のその言葉が反芻され続ける私に美奈は容赦しない。
「うざいし、嫌いだし、存在が憎い。死んでほしいって思うくらい」
またも言葉だけ理解し、必要最低限の情報のみが脳で認識される。美奈は私に死んでほしいらしい。妙に客観視されて他人事のように思えた。
美奈に対して悪事を働いた記憶はなかった。それに私たちは出会って今まで、喧嘩の一つすらしたことがない。気づかぬうちに気に障るような言動をしていたのだろうか。可能性はないとは言いきれなかったが、もしも美奈と僅かに対立するような要因が私にあったとしても、あまりにも酷く大きい憎悪だ。何もしていなくても私は憎まれる対象。
仲が良いと思っていたのは私だけだった。
私は酷くショックを受けたのか、はたまたただ単に返答が思い浮かばなかったのか、愛想笑いだけを返してその場は黙り込んだ。後から思い返すと、それも変な言動に思える。しかし、それくらいに私は混乱に脳がキャパオーバーしていたのだ。
私は生きているだけで憎まれる存在なのだ。いつも誰かが私を憎んでいる。仲が良いと思っていた人でさえも、実際のところは私のことが憎くて堪らないのだ。私が生きていることを世界が拒絶する。全ての人は敵だった。みんなが主人公で、私は敵。ヒーローが悪をやっつけるために私は殺されるというように、いつの日か突然鋭利な刃物で誰かが刺し殺してくる気がした。
私はその事実を一生忘れられない。この銃弾が胸を貫いたような衝撃は、今でも鮮明に身体に刻まれている。自覚したくなかった。そうでありたくはなかった。
友達もクラスメイトも先生も、みんな私のことが本当は嫌いで憎かったんでしょう?ずっと隠して我慢して生きていたんだよね。これからは私が我慢するから────。

「結生じゃん。久しぶりだね。元気してた?」
中学生時代の同級生である美奈は私の旧友だ。相変わらずの親しみやすさに太陽のような笑顔。美奈とは他の誰よりも長い付き合いで、唯一親友と呼べるような仲だった。
「久しぶりだね。元気だよ」
「私、家族と旅行に来てるんだ。結生は?お姉さんと来てるの?」
美奈は私の隣にいる早苗の方を指さす。
美奈は私の兄弟構成までは知らない。誰も知り得ない。
当然ながら、昨日初めて出会った人であるとは言えたものではないため上手くはぐらかす。本当のことを言ってしまえば、いろいろと面倒くさいことになるだろう。そんなことは目に見えている。
「うーん。まあ、そんなとこかな」
「偶然だね!それにしても会えて嬉しいよ」
「私もだよ」
笑顔を浮かべるが、自分でも強ばっていることが分かる。悟られぬようにより取り繕うとすればするほど不自然な笑みになってはいないだろうか、と不安がのしかかる。逃げ出したい。
現実感が遠ざかっていく。これが夢だったらいいのに。何も考えたくない。私は今、一体何をしているのだろう。
真美は先程からどこか不思議なものを見るような目でこちらを見ていた。眉間寄せられた皺が変わることなく時間が流れる。
視線を逸らすことができず堪える。
真美の唸り声が聞こえる。何に対しての疑念なのか答えが定まらない。数多の答えを思いつく癖にして、解答欄は真っ白。馬鹿だなあ、と心の中で自嘲する。
「なんかさ、変わった?」
「どういうこと?」
理解できず尋ね返す。瞬く中で断片的に見える視界は僅かに揺れ動いている。不安が顔に溢れ出してしまいそうだ。
「うーん、なんというか、いつもの結生じゃないっていうか。テンション低い?なんか結生らしくない。前はもっと明るかった。やっぱりそれって……」
私らしくないって何?
胸の内で黒い感情がぐるぐると渦巻く。それはやがて広がり私を支配する。視界に映るものが認識できない。私が今見ているものは何。私のじゃない家。煩い教室。スカートを履いた顔に靄がかかった女の子。嫌だ。何も見たくない。見させないで。
喉が締め付けられている気がする。熱いのか冷たいのか、どちらとも取れるような温かさを感じる。
鼓動が煩い。ドクドクドクドク煩い。
早苗さんは横に突っ立ったまま一言も話さなかった。顔は見えない。見ようとしなかったから。
私もまた、一言も話さなかった。
さっきから視界が悪い。漠然とした脳で考える。視界の下方が白濁している。館内の蛍光灯が異様に白く光り輝いていて眩しい。頭がぼーっと熱中症にかかったかのように動きが衰えていた。
結生らしくないよ、とつい先程の真美の言葉を思い出してふと、我に返る。視界が戻ってくる。黒髪の女の子。赤い絨毯。受付口の従業員。
気づけば外に飛び出していた。あの場所から外に出るまでの記憶がない。どうやってあの人混みをすり抜けたのかも、どうやって二本の足で走ったのかも、どうやって呼吸していたのかも、何も記憶になかった。
背後で誰かが何かを叫ぶ声が聞こえた気がするが、気にとめる余裕がなかった。無視した。引き換えす、という考えはなかった。
無我夢中で走る。
外は未だに大雨が降りしきっていた。雷こそならないものの強風だった。
雨音や風の音、遠くから聞こえる川の流れる音が耳に届く。意識を全て耳に集中させるが、脳は働き続けていた。幾度も先程の美奈とのやり取りが反芻される。消し飛ばすことはできない。執念深く纏わりつく。
結生らしくない。
ひたすら走る。息があがって苦しいが、今は走らずにはいられない。足がもつれそうになっても走り続ける。幾度も滑って、つまづいて、転びそうになる。
外は暴雨で誰もいない。私独りだけの世界。最初から最後まで、誰も入られやしない私独りだけの世界。
服も髪も雨で酷く濡れてしまっている。顔や腕にへばりついて煩わしい。走りながら顔にかかる濡れた髪を雑にあしらう。気づけば鞄もどこかに投げ捨ててしまっていた。所詮、あの鞄には微塵の金もなくて価値のない財布しか入っていない。しかし早苗さんの名刺が入っていた。
走って走って、そして転んだ。雨水に濡れたタイルに足元をすくわれた。バシャッという水しぶきの音とともにその場に手をつく。砂利が手のひらの下敷きとなるが、痛みは感じなかった。そんなことどうだっていい。
目先には泥水で汚れたお気に入りの青いスニーカーがあった。長年履き倒すくらいには気に入っていたが、今さらそんなことはどうでもよかった。もう全てがどうだっていい。何がどうなろうがもう、私には関係のないことだった。
大雨でドラマチックな演出みたい、なんて場違いなことを思った。
手に付いた小さい砂利を払うこともせずに、立ち上がって再び進み始めようとすると、不意に誰かに腕を掴まれる。驚いて反射的に腕を引っこめる。
「誰っ?」
こんな暴雨の中を外出する人なんかいるはずがない、と思った。そのため私の腕を掴んでいる手の正体が恐ろしく感じる。
恐る恐る振り返ると、片手を膝について肩を大きく上下させている早苗さんがいた。膝に手をついていないもう片方の手には傘が握りしめられている。不安げな表情を浮かべていた。その表情が私を苦しめる。どうして早苗さんがそんな表情をするの?ねえ、どうして?
彼女の手に込められている力が、そこに含まれる彼女の感情が怖かった。早苗さんが今、何を思っているのか、それを掌握したかった。そうしないと早苗さんの私に対する感情という名の不可解なものが恐ろしくて仕方ない。いっそのこと、悪でもいいから私の手の中にそれを収めさせて。
早苗さんは急にバッとその手を離した。力を込めて掴んでいたことに気づいたのだろう。私もそれ程までに実感はなかった。それでも早苗さんは申し訳なさそうな表情をしていた。
「濡れちゃうよ」と早苗さんは私に旅館の貸し出し用の傘を差し出す。拡がった傘が私の頭上に一時的に留まる。しかし私にはその行動さえも何か裏の意味があるのではないかと怖がって、その範囲から逃れる。瞬時に再び雨が私を襲う。
僅かに離れてようやく傘全体を捉える。透明のビニール傘にはいくつかの水玉模様が刻まれていた。水玉模様は新しくできては、すぐに滴り落ちて崩壊していく。そしてまた新しく同じことを繰り返す。私には新しく生まれるものなんてなかった。いつも失ってばかりだった。暴風に煽られた傘は今も尚、暴れていて形が歪だった。
早苗さんは傘が飛ばされぬように柄を力強く握りしめていた。差し出された傘を私は受け取らなかった。そのせいで、傘はそのまま早苗さんの手元に居座り続けた。
「帰ろうよ」
早苗さんが暖かく言う。
私が外に飛び出したせいで今、早苗さんが雨に打たれる状況になっていることについては何も言わなかった。咎めることさえしない。
早苗さんのことたがら、きっと気遣って触れないでいてくれていることは分かっている。分かっていても、私はその気遣いでさえも怖い。真実が分からない。ねえ、何を考えているの?
「怖い」
小さく呟く。雨の音で殆ど掻き消されたも同然のように思われた。
「え?」
微かな声でも早苗さんはそれを逃さない。傾聴を懸命に続ける。
「最悪だよ、ほんと。思い出しちゃったんだから」
落胆は雨とともに地面に落ちていく。それは芽吹くこともなく、ただ徒労のように何も生み出さないことを続けていく。
「思い出しちゃったよ。全部。私が本当はどんな人間なのかが。旅行とか現実逃避みたいなことして忘れてた。こんな気持ちがこれから一生続くなんて嫌だ。だから終わりにしようとしたのに」
言葉が氾濫した。ぷつりと我慢の糸が切れる。
身体が冷たかった。雨のせいだ。夏なのに寒い。内側だけに留まらず、外側までも冷えきっていく。
「どういうこと?」
脈絡のない支離滅裂な発言に早苗さんは戸惑った。私の記憶が、私の感情が、断片的に紡がれる言葉なんて誰も理解しなくていい。
大きな音を立てて力強い風が吹く。雨が風と一心同体となって私たちを叩きつける。
早苗さんの持っていた傘が宙を舞った。張り詰めていたものが途切れて、解放されるように。飛騨川に向かって落ちる。多分、あれはもう流されて壊れてしまう。使い物に戻すことはできないだろう。
早苗さんも私も傘を気にしなかった。貸し出し用なのに。後で怒られてしまうかもしれないのに。本当に全部がどうでもよかった。
私は今までの苦悩を早苗さんに話した。親友に「死んでほしい」と憎悪を向けられたこと。その衝撃以来、みんなが敵に見えたこと。人間不信に陥ったこと。全てを吐露した。自分でもよく分からなかったが、早苗さんに全て話してみる気になったのだ。気まぐれなのか、本当にもう最期だからか。
「そっか」
早苗さんはその一言しか口にしなかった。雨音に混じって、ずっとその一言しか聞こえなかった。
辛かったね、頑張ったね、などの言葉は言わなかった。そんな言葉はただの同情でしかなく、惨めな思いをただ募らせることしかできない。私にそんな言葉は不要だった。誰かからの私に対する感情が、意見が怖かった。
早苗さんの言葉が心地よかった。肯定も否定もしない。ただ、相槌を打つだけ。それだけで私は少しくらい安心できる。
もう誰も何も言わなくていい。私は何も聞きたくない。終わりくらい澄んだ気持ちでいたい。
だが、やはり私は私のようで、黒く淀んだ考えが脳を支配する。本当はみんなみたいに早苗さんも敵で、この吐露した内容を美奈などに言いふらすのではないか。心の中でほくそ笑んでいるのではないか。そんな考えが脳裏に未だ居座っている。理由も根拠も何もないのに、猜疑心が私を縛りつける。
信じきれない。不安で胸いっぱいに満ちる。私のことを裏切っているかもしれない早苗さんが憎かった。
それでも早苗さんのことを信じたい気持ちはあった。早苗さんに限らず、高校のクラスメイト先生も職員さんも、本当は信じたかった。考えることに反して、私の感情はいつも矛盾していた。本当に私はどうしようもない奴だ。そんな私が、私は嫌いだ。
「あんなこと言われた数年後に、美奈が好きだった人が私を好きだったってことを初めて知ったんだ。嫉妬したからあんなことを言ってきたんだって、今なら思う」
数年を経って私は真相を聞かされた。
『美奈の好きな人って結生のことが好きらしいよ』
『美奈、いつも苦しそうにしてて。応援したいって思っても結生がそいつと話してるところ見ると嫉妬で可笑しくなりそうって。よく泣いて相談しに来てた』
どうしてもっと早くにその事実を言ってくれなかったのだろう、と責めたてたい気持ちが湧き上がってきたが、それはしなかった。私はその気持ちがただの八つ当たりでしかないということを自覚していた。
親友だと思っていた。だからこそ、話してほしかった。話がしたかった。私に勇気がなかったから、私が手違いでも好きになられてしまったから、私が存在したから。私が信じていた親友は私のことを信じてはいなかった。もっと信頼される努力をしていたら、未来は変わっていたはずなのに。
嫉妬心から私に対する憎悪。それならばあの時の発言は仕方がなかった。そう捉えた。思う節はたくさんあったが、割り切ろう。だから私は憎まれる存在ではない。もう人を怖がる必要はない。
しかし、私は変われなかった。
「でも、私はもうとっくに手遅れだった。憎まれる存在ってことを自覚しちゃったから」
あの真相を知った後に、生み出してしまった人に対する猜疑心、恐怖心を消そうと努力した。みんなは敵なんかじゃない、誰も裏で私のことを憎んではいない。そう信じたかった。
だが、それは叶わない夢物語。結局は幻想で終わるのだ。私は主人公なんかじゃない。結局は悪役が、村人Aのようにバットエンドで最終章を迎える。
「だから、こんな私はみんなが私を認めてくれるような優等生でいなきゃいけなかったの。嫌なことも平気な顔して引き受けて。これなら誰からも反感を買うことはないでしょう?優等生の私が私を守ったの」
雨の音が、川の音が、私の声を掻き消そうとしていた。私の言葉は早苗さんに届いているのだろうか。届かなくてもいいとも思うが、早苗さんは懸命に傾聴している。その様子が彼女の鋭い眼差しから見て取れる。
早苗さんが聞いているのか定かではなかったが、話を止めなかった。今更、聞いていようが、聞いていまいがどちらでもいい。結果は変わらない。
「でも、あんな優等生の私は私なんかじゃない。本当は自分を偽ることが辛かったし、自分が嘘で取り繕っている分、目に見えるみんなも全部、嘘なんじゃないかって余計に不安になった。それに自分じゃいられないなんてそんなのもう死んでいるのと同じ。本当の私は死んでいるも同然。それなのにこんな馬鹿なこと続けて生きていくくらいなら、それならいっそ全部終わらせたい」
飛騨川を眺めながら自嘲するように呟いた。冷淡な声が消える。その発音体もこれから消える。
暴雨のせいで地獄のような景色だった。されど川と言えど、荒波が激しく暴れている。呑み込まれてしまえばまず、助からないだろう。
橋の手すりを強く握っていた。手は震えていない。脳は驚くくらいに冷静さを保っている。これこそが本当の終わりなのだろう。そう悟った。
私の物語はもう終盤に差し掛かっている。あと僅かで結末を迎える。
長いようで短い人生だった。思い返せば私は恵まれている方の人間だとは思う。衣食住に困ったことはないし、それなりには文武両道で、コミュケーションだって上辺だけの方が多かったが、大して不自由はしていなかったはずだ。
それなのに、中身が私であることが人生最大の間違い。これさえなかったら私は幸せに生きられていたのだろうか。考えるだけ無駄だ。
濡れた手すりに足をかけた。