夏の日差しが通り過ぎゆく人々の汗を照らしていた。猛暑による暑苦しい存在の太陽とは対称的に人々の滴る汗は控えめながらも、その存在はあった。
私はさっきからただじっと、その場に立ちすくんでいた。金縛りにあったかのようにずっと、視線さえ動かずにただじっと、見つめている。
瞳は虚ろに見えた。寝起きで視界がままならない時のような目にも捉えられなくはないが、なんにせよ定まっていないような遠くを見つめる視線はとても不思議なものだった。私はそのまま瞼を閉じて、黒い世界の中で夏の空気を大きく吸った────。
電車の揺れに身を委ねながら、車窓からの移り変わる景色を眺めていた。小さく不規則に身体が左右に揺さぶられる。そのリズムが心地良く、気持ちは自然と穏やかに温まっていった。
今日は緑とよく映える快晴。加えて夏休みだからか、それとも平日の昼間だからか車内は思いのほか人混みは少ない。そのため私は静かな空間で自然溢れる景色を感傷に入り浸りながら眺めていた。広がる屈託のない青空が私の心を踊らせる。雲一つすらない空はあまりにも夏という夏を感じさせていた。
今日は夏休み初日だった。近年は猛暑が続いていると、ニュースでうるさいくらいに聞くが、車内は冷房によって涼しさを保っている。少し肌寒いくらいに。私は隣の車両にある弱冷車という文字を思い浮かべた。
生涯において最初で最後と言えるだろう。私はこの夏休み初日に自らの力で旅に出た。旅と言っても一日程度で終わってしまうものではあるが。しかしながら旅に出て、電車に乗ったはいいものの所持金は既にゼロ円という。どうしたらこの世界で遠出するというのに所持金ゼロ円で穏やかでいられる人間がいるのだろうか。世界中どこを探し回ってもそんな人はいないだろう。我ながらなかなかイレギュラーな人間ではないだろうか、と心の中で思う。
私の思考回路を数ある車両から当てはめて言うと特急列車だった。自ら同じ道を走り続けるだけの意味のないことを繰り返す無機物。ただし、それは止まることを知らない。なぜなら、かつてにブレーキが壊れてしまったからだ。内側に誰かを乗せることも、駅に身を置くことも何もしない特急列車。
今日という青空の元、私という特急列車は運行を永久に見合わせようとしていた。レールから外れた列車はもう元のようには戻れない。私も戻りたくないと思うだろう。
私はさっきからただじっと、その場に立ちすくんでいた。金縛りにあったかのようにずっと、視線さえ動かずにただじっと、見つめている。
瞳は虚ろに見えた。寝起きで視界がままならない時のような目にも捉えられなくはないが、なんにせよ定まっていないような遠くを見つめる視線はとても不思議なものだった。私はそのまま瞼を閉じて、黒い世界の中で夏の空気を大きく吸った────。
電車の揺れに身を委ねながら、車窓からの移り変わる景色を眺めていた。小さく不規則に身体が左右に揺さぶられる。そのリズムが心地良く、気持ちは自然と穏やかに温まっていった。
今日は緑とよく映える快晴。加えて夏休みだからか、それとも平日の昼間だからか車内は思いのほか人混みは少ない。そのため私は静かな空間で自然溢れる景色を感傷に入り浸りながら眺めていた。広がる屈託のない青空が私の心を踊らせる。雲一つすらない空はあまりにも夏という夏を感じさせていた。
今日は夏休み初日だった。近年は猛暑が続いていると、ニュースでうるさいくらいに聞くが、車内は冷房によって涼しさを保っている。少し肌寒いくらいに。私は隣の車両にある弱冷車という文字を思い浮かべた。
生涯において最初で最後と言えるだろう。私はこの夏休み初日に自らの力で旅に出た。旅と言っても一日程度で終わってしまうものではあるが。しかしながら旅に出て、電車に乗ったはいいものの所持金は既にゼロ円という。どうしたらこの世界で遠出するというのに所持金ゼロ円で穏やかでいられる人間がいるのだろうか。世界中どこを探し回ってもそんな人はいないだろう。我ながらなかなかイレギュラーな人間ではないだろうか、と心の中で思う。
私の思考回路を数ある車両から当てはめて言うと特急列車だった。自ら同じ道を走り続けるだけの意味のないことを繰り返す無機物。ただし、それは止まることを知らない。なぜなら、かつてにブレーキが壊れてしまったからだ。内側に誰かを乗せることも、駅に身を置くことも何もしない特急列車。
今日という青空の元、私という特急列車は運行を永久に見合わせようとしていた。レールから外れた列車はもう元のようには戻れない。私も戻りたくないと思うだろう。
