あなたと並んで勝ちたくて

 2階に上がって一番奥の部屋が、青原さんの部屋だった。

「どうぞ」
「う、うん……」

 促され、遠慮がちに入る。同級生の人の部屋に入るなんて、かなり久しぶりなわけで。

 同時に視界に映ったのは意外とかわいらしい部屋だった。
 薄い緑色のカーテン、ベージュのカーペット。ベッドもふかふか柔らかそうで、勉強机の上には小物が並んでいた。

「なんか……普通だね」
「普通?」
「あっ、ごめん変な意味じゃなくて! あんまり部屋に物とか置かないタイプの人だと思ってたから」

 必要最低限のモノだけの殺風景な部屋。そんなイメージを勝手に抱いていた。

「あと、卓球すごい好きそうだから卓球一色だったりするのかなあって」

 なんか有名選手のサイン飾ってたりとか。

「……一応あるけど」

 そう言って、本棚を指さす。文庫本や参考書に並んで、そこには卓球の雑誌が。

「うわ、すごい揃ってる……」
「毎月、買ってるから」

 青原さん、本当に卓球が好きなんだなあ……。

「ん?」

 自分の気持ちの答えがあるわけでもないのに、なんとなく本棚を眺めていると、卓球関連とはまた違ったものが目に入った。

「青原さんも、ゲームとかするんだ」
「お父さんが買ってくるの、置いてるだけ。ほとんどやったことない」

 本棚の隅に、ゲーム機とソフトの箱がきれいに収納されている。

「そうなんだ。でもなんか、意外」

 だってソフトがスマブラとかマリカーとか、みんなでやるタイプのものだったからだ。思わずひとりでゲームしている青原さんを想像して笑いが漏れてしまう。

「優月……なんかバカにしてない?」
「い、いやいやそんなことないって」
「いや、その顔はしてる」
「だからしてな……」

 彼女の顔を見て、驚いた。ほんの少しだが、拗ねたような表情だったからだ。それは、今まで見たことなかった。

「じゃあ、勝負しよう。これで」

 言って、青原さんは本棚からゲーム機やらを取り出す。選んだソフトは……スマブラだった。

「5回勝負。負けた方がなんでも言うこと聞く」
「えっ?」

 突然の条件に、私は驚く。だけど。

「……いいよ、やろう」

 首肯する。勝ったら、もっと青原さんのこと、教えてもらおう。ダブルスのためにも。
 それに、スマブラなら昔やったことがある。

「じゃあ、恨みっこなしだからね」

 そうして、ふたりだけのスマブラ大会が幕を開けた。


 ◇


 蓋をあけてみれば、5戦中1勝4敗で、青原さんのほぼ圧勝だった。

「私の勝ち、だね」

 隣でコントローラーを握る青原さんは、勝ち誇った顔を向けてくる。ぐう、悔しい。

 ほとんどやったことないと言ってたけど、嘘ではなかろうか。なんかやりこんでいる感があったぞ。

「も、もう1回」
「だめ。5回勝負って約束だったでしょ」
「たしかにそう言ったけどさー」

 私は脱力して、その場に転がる。ベージュのカーペットが敗者である私の身体を労わるように受け止めてくれる。

 私が勝ったのは最初の1回だけで、そこから青原さんは容赦なく私のキャラを攻めたててきた。

「そ、それじゃーそろそろご飯にしよっかー」
「優月」

 起き上がる私を、青原さんがじっと見つめる。

「忘れてないよね。負けた方がなんでも言うこと聞くって」
「あ……うん」

 言葉の圧が強くて、思わず引き気味になる。青原さん、そんなに私に命令したかったの……?

 まあ、敗者である私に拒否権はない。勝負を受けた時点で、こうなることは覚悟のうえだ。

「女に二言はないよ。それで、どんな命令を聞けばいいの?」

 さあ、どんな命令でもどんとこい。痛いのとか怖いのは嫌だけど。

「それじゃあ――」

 あらかじめ考えていたのか、迷うことなくさらりと、命令を口にした。

「一緒にお風呂入ろ」