「いやー、もうちょっとだったのになあー」

 体育館を出るころには、外はオレンジ一色に染まっていた。

 後ろに手を組んで悔しそうな表情をしているのは、試合に出ていない瑠々香部長。

「ま、部長なしでこれならいい方っしょ。なんならもう引退会見開いちゃいます?」
「バーカ、ボクは夏の大会まで部長もエースも譲るつもりはないからね。そんなにボクを引退させたかったら、部内の試合で1回でも勝ってから言うんだねー」
「ぐぬぬ……」
「それにしても、杏子ちゃん今日は応援だけなのにありがとうね」
「いえいえ! いい勉強になりました!」

 周りには、軽やかな会話。

 その中で、私たけの口が硬く引き結ばれていた。まだ汗の乾ききらない髪が、頭を重たく感じさせる。
 いや、重いのは頭だけじゃない。胸の内が、泥水をため込んだみたいだった。

 そしてやっとの思いで、私は口を開いて、

「……すみません。私、先に帰ります」

 会話が、止まる。私のせいで。

 数瞬置いてめぐ先輩が、

「あ、優月ちゃん。今日はありがとうね。無理言って出てもらっちゃって」
「いえ……、おつかれさまでした」

 私は両足に力を込めて、少しだけ早く歩き始める。追ってくる人も、声をかける人も、いない。

 歩きながら、脳裏をぐるぐる廻るのは、今日の試合結果。

 チームは5勝1敗。うち私は5回、試合に出場。

 私の戦績は、0勝5敗だった。