その音が嫌いになったのはいつからだろうか。
　ピンポン球の跳ねる音。特に床に落ちる音がいちばん嫌いだった。

　私は体育館に、卓球の試合会場にいた。そして目の前には試合をするための卓球台。嫌いだからといって耳を塞ぐわけにはいかなかった。仮に塞いだとしても、周囲からその音は土砂降りの雨みたいに私の身体を打ちつける。

　同じ音が、鳴っては消えていく。まるで空気中を漂い、すぐに弾けてなくなってしまうシャボン玉のように。
　たった今、足元で響いた一音だけを除いて。

　それだけは消えなかった。耳にこびりついて離れなかった。なぜなら。
　その球は、私がついさっきまで必死の思いで打ち、追いかけていたものだから。
　コーン、コーン。ピンポン球は音を反響させながら私の足元でバウンドし、数回床を打った。
　とても軽い音。ふわふわと浮いてどこかへ行ってしまいそうなほどに。だけどそれは同時に、鉛のような重い現実を孕んでいた。思わず胸を抑えてしまいそうになるほどの。

　わずかな間隔を置いた後、歓声が頭上の観客席から聞こえてくる。それらは決して、私に向けられたものではなかった。

「…………」

　私は無言のまま、唇をきゅと引き結び、ラケットを力いっぱい握りしめる。握りしめるだけ。その力のやり場は、最早どこにもない。

　……まただ。また、ダメだった。

　時間を追うごとに直面している事実が押し寄せてくる。鮮明に、あざやかになってくる。
　気づけば視界は滲み、苦さとしょっぱさが口の中に広がっていた。果たしてそれは頬を伝う汗か。それとも知らない間に流れた涙か。いや、きっと汗だ。涙を流すようなことはなにもしていない。なにもできていない。

　視界の端で、審判が持つスコアがめくられた。反対側の端では、対戦相手の喜ぶ顔。私より年下で、幼さの残る少女の。
　うれしいのは当たり前だろう。彼女は次へと駒を進めることができる。全国中学卓球大会、県予選。その１回戦に勝利することができたのだから。

　そして、それはもうひとつのことを意味していた。

　私が負けたということ。１回戦を敗退したということ。
　つまり、中学の部活生活が終わったことに他ならない。