さよなら、未来




「夏輝ぃ、お前、春崎さんの事好きだろ。」


最早疑問形ではなく確信めいた俺の発言に、夏輝はわかりやすく顔を真っ赤にさせた。
午前中に小学校の同級生と聞いた時から、俺の冴えわたる直感が薄々感づいてしまっていた。
恋愛(ゲーム)に関して百戦錬磨の俺の嗅覚が甘酸っぱいロマンスを見抜いていたのだ。
しかしながら進捗は芳しくなさそうで、いうならば好感度はまだまだ20%ってとこだろうか。
友人ではなく、同級生という言葉を選んだところが、それなりに距離があると思われた。


「…す、好きっていうか…、つらかった時、彼女に救われたんだよ…。」


放課後の帰り道、駅前のファーストフードに寄って、話を聞くことにした。
夏輝の口から語られる飼い犬の話と春崎さんとの思い出は聞いてて涙が滲んだし、再会できて良かったな!と全力で喜びたい。
まるでどこかのドキュメンタリードラマの話みたいで、なんなら小説でも執筆すれば感動の映画化とかするんじゃないだろうか。
そう思わずにはいられないほど、俺の心が久しぶりに動いた気がした。

地元の友達とノリが合わなくて、気づいたら孤立していた中学時代。
思い切って少し離れた高校を受験してみたが、正解だったかもしれない。
夏輝とは今日初めて話すのに、まるで幼馴染だったかのように打ち解けて、心地が良かった。
思い出話もそうだけど、夏輝は純粋だ。
恐らく、他人の事をあまり悪く言うタイプではないし、偏見があるタイプではない。
だから、最初に趣味のゲームの話をしても、まったく引かなかったし、むしろ興味を持ってくれた。
昔の俺は狭い世界で生きてたんだな、と思う。まさに井の中の蛙大海を知らず、だ。
少し足を延ばせば、こんなに良い友人と出会える。
もっと早く、外の世界を見ればよかったと後悔しているし、「この先、いい友人に巡り合えるぞ。」と、あの時の自分に教えてやりたい。
その日はお互いの話で盛り上がり、夕飯の時間になるまで語り明かした。

ある日、俺は昼休みに夏輝に提案した。
「春崎さんともっと仲良くなろうぜ!」と。
恋愛の好きでも友人の好きでも、この際どっちでもいい。
ただ、俺は2人にもっと仲良くなってもらいたいと思った。
俺の見立てでは脈ありだと思ったからだ。
それなのに、このまますれ違って進展しないまま卒業するなんて、そんなじれったい2人は見ていられない。
その為に、俺の全アニメ・ゲーム知識を持って全力で作戦を練る。
見た目は勿論、内面、頭脳も磨いて損はない。
幸い、夏輝は見た目は悪くないし、少し気弱だが欠点という大きな欠点は見当たらない。
俺の説得に心が揺らいだのか、夏輝もやる気を出してくれたみたいだった。

まずは接点を増やす。
同じ委員会に立候補し、校外学習など班決めの際は即座に声をかける算段だ。
となれば、春崎さんの友達とも仲良くなった方が良いだろう。
休み時間にさりげなく様子をうかがっていると、春崎さんは分け隔てなく、ほぼ全員と仲が良かった。
これといった親友が見つからないので、とりあえずお昼を一緒に食べている3人にターゲットを絞った。

1人目は宮下。
背が一番低く、正直中学生にしか見えない女子だ。
春崎さんに甘えてるイメージが強く、1人でいるところはあまり見ない。

2人目は鹿野。
春崎さんとは真逆のクールビューティータイプ。
表情を崩したり、大声を出しているのを見たことがない。

3人目が小野寺。
俺の前の席で、ちょっとにぎやかな奴。
スマホゲームが好きらしく、たまに授業中にやっているのが後ろから見える。

…この中なら小野寺だろう。
授業後、すぐに小野寺に声をかけてみた。


「小野寺さん、ちょっといい?」

「ん?あ、後ろの!…名前なんだっけ?」

「冬川だけど。」

「そうそう!冬川!どしたの?」

「えーっと、小野寺さんさ、ゲーム好きでしょ?俺も好きなんだけど…。」


以前、たまたま見かけたスマホの画面に見覚えがあり、自分と同じゲームをやっていることに気づいた。
そこで、ゲームを開いて、自分のスマホ画面をちらりと見せる。
一般向けのパズルゲームなのだが、少々テイストがマニアックでユーザー数が少ない。
時折イベントでチーム戦が行われるのだが、ユーザー数が少ない故にフレンドを集めるのが大変という仕様だ。


「…えっ!!これっ!マジパズじゃんっ!!!冬川やってんの!?フレンド申請して!!」


ーー思った通りの食いつきだ。
これで小野寺と少しずつ仲良くなれば春崎さんとも接触しやすいだろう。
俺もゲームが有利に進めるし一石二鳥だ。


「OK、登録~!!」

「…ってランク高ぇな…!?」

「んふふ~。やり込んでますからねぇ~。」


こうして小野寺とのやり取りを交えながら、春崎さんのグループに少しずつ近づいたーーわけだが。
俺の思惑は一か月もしない内にバレてしまった。
女子にしては大きな足音を立てて、小野寺が俺の机にゆっくりと近づく。


「ふ~ゆ~か~わ~~?」

「ど、どーしたんだい、小野寺サン…。」

「最近マジパズさぼってるだろぉー!!全然イベント報酬増えないんですけどっ!?」


そう、元々ギャルゲー好きな俺からしたら一般ゲームは嗜む程度…。
やりこみガチ勢の小野寺からすれば、俺はかなりゲームの進行度が遅いだろう。
なるべくバレないようにログインだけはしていたが、ついにチームスコア報酬でバレてしまったらしい。


「絶対私しかやってないじゃん!さてはお前っ!未来狙いで近づいた狼かーっ!!」

「い、いや、ちが…っ!」


…違くはない、…けども。
でも狙ってるのは俺じゃなくて夏輝だし…。
とっさに否定はしたが、動揺が顔に出ていたのか、小野寺は目を丸くして急におとなしくなった。


「…本当に、…そうだったの…?」

「……あー、ちょっと訳アリで…。内緒にしといてくれるか?」


俺は小野寺をちょいちょいと手招きした。
他所の猫のように警戒しながら近づいてくる小野寺に耳打ちする。


「実はさ、夏輝と春崎さんをくっつけたいんだよね。」

「……………はぁ!?」

「……え?」

「…え、アンタが未来とくっつきたいんじゃないの!?」


どうやら俺が春崎さんを狙っていると本気で勘違いされていた様だった。
…まぁ発案者は俺だから遠からずなんだが。
小野寺は安堵した表情で「なんだぁ、良かったぁ~。」と笑って息を吐く。
…良かった?あれ、もしかして…?小野寺って俺のことー…。


「冬川がマジでにわかの自称ゲーム好きだったら…シメてやろうと思ったわ。」

「あーー、……そっち?」


うっかり自惚れそうになってしまった俺はガックリと肩を落とす。
どうやら俺のことが好きな訳ではなく、ゲーム好きとして不純な動機でゲームを始められるのが嫌だったらしい。
所詮、俺は主人公の友人枠。脇役がお似合いということか。
小野寺は他のゲームにも協力するという条件で、俺の作戦に乗ってくれることになった。
こうして小野寺の協力もあって、気が付くと夏輝と春崎さんは自然と話せるようにまでなっていた。