私、柚原紗月の初恋は幼稚園の先生だった。
優しくてかっこいいお兄さん。
不器用で折り紙も折れなくて泣きべそをかいてる私に、優しく丁寧に教えてくれたのがきっかけ。
もちろん、そんな小さい恋は実ることがないまま卒園し、小学生2年生の頃、2度目の恋をした。
みんなに優しくて、笑顔が素敵なクラスメイト。
男の子なのにガサツで乱暴なところが一切なく、学校で飼ってる生き物に優しくて、
飼ってる犬と仲がよさそうに散歩しているところも、何度か見かけた。
みんなの意見をちゃんと聞いてくれて、何かあれば先生にも意見を言ってくれる、影のヒーローみたいだった。

3年生になってクラスは変わってしまったけど、ある朝、とても暗い顔をしている彼を見かけた。
本当は話しかけたかったけど、話したこともほとんどなかったし、遠巻きに見ることしかできなかった。
当時の私は、背も低くて太ってて、ダサい眼鏡と癖毛でクルクルの髪。
こんな見てくれの悪い私に心配されても嬉しくないだろうし、と勇気を出すことができない。
そんな弱い自分が、何よりも一番嫌いだった。

幼稚園の頃から仲の良い未来ちゃんが羨ましかった。
みんなから好かれてて、笑顔が可愛くて。
着ているお洋服も可愛いし、サラサラの髪も綺麗。
幼稚園の時の送迎に来る両親を見れば、愛されてることは一目瞭然。
私とは真逆のような存在だった。
昔は気づかなかったけど、小学生にもなれば家庭環境がなんとなくわかる。
自分は放任に近い両親から最低限の事はしてもらっていたけど、未来ちゃんのように保育園のお迎えで「ただいま」と両親から抱擁された記憶はない。
夏休みなどの長いお休みだって、旅行や遠出に連れて行ってくれたことはなかった。
だから、何もかも持っている彼女が許せなかった。
醜い嫉妬だ。

あの日、私が好きになった青山くんに、未来ちゃんは近づいた。
未来ちゃんは優しいから、ただの親切だったかもしれない。
それでも、私がしたくても出来なかったことを、彼女は簡単にやってのける。
下校する2人の後をつけて、青山くんの飼っていたペットが亡くなったことを知った。
写真を借りる姿を見て、私は直ぐに察しがついた。
手先の器用な彼女は、ビーズのブレスレットなどをプレゼントしてくれたことがある。
だからきっと、彼のペットをビーズで作るのだろう。
それは私には真似出来ないことだった。

3日後、この前と同じように2人の様子を伺うと…。
思った通り、ビーズで出来た犬のストラップをプレゼントしていた。
受け取った青山くんの満面の笑みを見て、心が押しつぶされそうだった。
ーー私が、彼の隣にいたかったのに。
未来ちゃんよりも先に、青山くんを知っていたのに。
私の方が青山くんの良いところ、知ってるのに。
なんで、未来ちゃんなの?
顔が可愛いから?
ビーズが上手だから?
青山くんも、未来ちゃんを好きになってしまうの…?

翌日、いつも通り休み時間に隣のクラスまで話しかけにきた未来ちゃんを無視した。
彼女はひどく困惑していた。
それはそうだ、だって私は彼が好きなことを教えてないし、思い当たることがないだろう。
だからってそれを素直に伝えるような性格はしていなかった。
次の日も、また次の日も、無視され続けた未来ちゃんは、そのうち話しかけてこなくなった。
私と話さなくても、彼女には他にもたくさん友達がいる。
私とは違う。
私には、未来ちゃんしかいなかった。
仲直りしないまま、小学校を卒業し、同じ中学を受験して、お互い合格したけれど、昔のように話すことはなかった。
高校は別々になり、未来ちゃんの事を少し、忘れかけていた時だった。
母親から、あの事件を伝えられたのは。