俺は、夢でも見ているのか?
目の前に加藤が浮いている。
あの時からまったく変わらない容姿、というか、制服姿そのままで再会なんて。
菜々はこのことを知っていたのか?
いや、知っているはずがないか。俺以上に死ぬほど驚いている。
ふいに女子トイレに現れた加藤は、気持ち青白い顔をしてどこか遠くを見つめていた。
加藤の浮遊した体がゆっくりと高度を下げていく。虚ろにさえ見えた目に、かつての優しい輝きが戻った。
「正和君、菜々ちゃん、久しぶり」
フリーズした俺たちは、何も言うことが出来なかった。
加藤が戻って来た。当時とまったく変わらない姿で。それがあまりにも信じられない光景で、俺たちはただ動けなくなっていた。
「加藤、なのか……?」
「そうだよ。剣心君が、あたし達を引き合わせてくれた」
そう言われて剣心を見ると、真剣な顔で頷いていた。そこですべての点が線で繋がった。
この不法侵入以外の何物でもない肝試しは、最初から俺たちを引き合わせるためにでっち上げたものだったのだ。
しかし、そもそも剣心はどうやって加藤に会ったんだ? いや、今はどうでもいい。それよりも目の前に死者がいることの方が問題だ。いや、どうしたらいいんだ、これ。
戸惑っていると、ふいに加藤の目に涙が溢れる。
「ずっと、ずっと会いたかった」
泣いている加藤を見て、思わず俺は駆け寄った。だけど、両肩を掴もうとした手はスッと虚空に抜けてしまう。
彼女の体をすり抜けた俺は、その場に立ち止まって手の平を見つめた。俺の手におかしなところはない。となると、やはり加藤は……。
振り返ると、加藤は悲しそうな顔で微笑んでいた。
「俺も会いたかったよ」
何事も無かったかのように返す。理由は分からないが、それが正しいことに思えた。
「菜々ちゃんも、久しぶり」
「美織ちゃん……」
菜々も突如現れた加藤との再会に涙を流していた。火葬場で棺にしがみついて「行かないで」って泣き叫んでいたのを憶えている。
その時初めて、加藤は本当に死んでしまったんだって認めるしかなくなったんだよな。それを思い出したら俺も泣きそうになった。
「なあ、加藤。今までこの学校にいたのか?」
「いたよ、そりゃあ。死んでも死にきれなくてさ」
「そうか、悪かったな。気付いてやれなくて」
「まったくだよー。気付いてもらおうとして物とか動かしたら、正和君ビビっちゃうだもん」
「あれ……やっぱりお前だったのか。怪奇現象が起こっているんだから、そりゃビビるだろう」
「そうか。そうかもね。ははは」
幽霊と対面しているは思えないほど和やかな雰囲気が漂う。やはり加藤は幽霊になっても加藤のままなんだろう。なんだか安心した。幽霊っていうと、どうしても怨霊みたいなやつを想像してしまうからな。
「でもさ、こっちは26年分話したいこともあるしさ、訊きたいこともあるんだよね」
加藤はそう言って続ける。
「まずはさ、お二人とも、ご結婚おめでとう。本当にお似合いのカップルだったよね」
「ありがとう。美織ちゃんが助けてくれたお陰だよ」
菜々がポロポロと泣きながら返事をする。菜々もまさか加藤と話を出来るとは思わなかっただろう。
だけど、底抜けに明るいはずの加藤の笑顔には、どこかもの悲しさが漂っていたのも事実だ。それもそうだろう。事故で人生の続きを断たれた彼女は、当たり前に経験出来たはずのことを経験出来ず、ひとりぼっちで26年もの間を過ごしていたのだから。
あの事故は俺たちから青春を奪い去った。
過去を悔やんでも仕方のないことだが、今死んだはずの彼女は目の前にいる。それが超常現象だとか幻覚の類だとか、そんなことはどうだっていい。
今は加藤と再会出来たことを素直に喜ぼう。そしてその再会へと俺を導いてくれた息子たちの献身に感謝しよう。答え合わせなんて、後でいくらでも出来るのだから。
目の前に加藤が浮いている。
あの時からまったく変わらない容姿、というか、制服姿そのままで再会なんて。
菜々はこのことを知っていたのか?
いや、知っているはずがないか。俺以上に死ぬほど驚いている。
ふいに女子トイレに現れた加藤は、気持ち青白い顔をしてどこか遠くを見つめていた。
加藤の浮遊した体がゆっくりと高度を下げていく。虚ろにさえ見えた目に、かつての優しい輝きが戻った。
「正和君、菜々ちゃん、久しぶり」
フリーズした俺たちは、何も言うことが出来なかった。
加藤が戻って来た。当時とまったく変わらない姿で。それがあまりにも信じられない光景で、俺たちはただ動けなくなっていた。
「加藤、なのか……?」
「そうだよ。剣心君が、あたし達を引き合わせてくれた」
そう言われて剣心を見ると、真剣な顔で頷いていた。そこですべての点が線で繋がった。
この不法侵入以外の何物でもない肝試しは、最初から俺たちを引き合わせるためにでっち上げたものだったのだ。
しかし、そもそも剣心はどうやって加藤に会ったんだ? いや、今はどうでもいい。それよりも目の前に死者がいることの方が問題だ。いや、どうしたらいいんだ、これ。
戸惑っていると、ふいに加藤の目に涙が溢れる。
「ずっと、ずっと会いたかった」
泣いている加藤を見て、思わず俺は駆け寄った。だけど、両肩を掴もうとした手はスッと虚空に抜けてしまう。
彼女の体をすり抜けた俺は、その場に立ち止まって手の平を見つめた。俺の手におかしなところはない。となると、やはり加藤は……。
振り返ると、加藤は悲しそうな顔で微笑んでいた。
「俺も会いたかったよ」
何事も無かったかのように返す。理由は分からないが、それが正しいことに思えた。
「菜々ちゃんも、久しぶり」
「美織ちゃん……」
菜々も突如現れた加藤との再会に涙を流していた。火葬場で棺にしがみついて「行かないで」って泣き叫んでいたのを憶えている。
その時初めて、加藤は本当に死んでしまったんだって認めるしかなくなったんだよな。それを思い出したら俺も泣きそうになった。
「なあ、加藤。今までこの学校にいたのか?」
「いたよ、そりゃあ。死んでも死にきれなくてさ」
「そうか、悪かったな。気付いてやれなくて」
「まったくだよー。気付いてもらおうとして物とか動かしたら、正和君ビビっちゃうだもん」
「あれ……やっぱりお前だったのか。怪奇現象が起こっているんだから、そりゃビビるだろう」
「そうか。そうかもね。ははは」
幽霊と対面しているは思えないほど和やかな雰囲気が漂う。やはり加藤は幽霊になっても加藤のままなんだろう。なんだか安心した。幽霊っていうと、どうしても怨霊みたいなやつを想像してしまうからな。
「でもさ、こっちは26年分話したいこともあるしさ、訊きたいこともあるんだよね」
加藤はそう言って続ける。
「まずはさ、お二人とも、ご結婚おめでとう。本当にお似合いのカップルだったよね」
「ありがとう。美織ちゃんが助けてくれたお陰だよ」
菜々がポロポロと泣きながら返事をする。菜々もまさか加藤と話を出来るとは思わなかっただろう。
だけど、底抜けに明るいはずの加藤の笑顔には、どこかもの悲しさが漂っていたのも事実だ。それもそうだろう。事故で人生の続きを断たれた彼女は、当たり前に経験出来たはずのことを経験出来ず、ひとりぼっちで26年もの間を過ごしていたのだから。
あの事故は俺たちから青春を奪い去った。
過去を悔やんでも仕方のないことだが、今死んだはずの彼女は目の前にいる。それが超常現象だとか幻覚の類だとか、そんなことはどうだっていい。
今は加藤と再会出来たことを素直に喜ぼう。そしてその再会へと俺を導いてくれた息子たちの献身に感謝しよう。答え合わせなんて、後でいくらでも出来るのだから。



