上手いこと花音を抱き込むことに成功したので、昼休みを使って作戦会議をすることにした。場所はいつもの屋上にある給水塔。幽霊の話なんて誰も信じないだろうが、話の内容を聞かれないに越したことはない。
屋上へ向かう際に「夫婦は仲がいいな」とからかわれたが、今さら反応している場合じゃない。それは花音も同じだったのか、俺の手をぎゅっと握ったまま無言を貫いていた。
屋上に来た花音は昨日ずっと泣いていたのか、目がほんのりと赤かった。それでもその目には強い意志というか、困難があっても乗り越えてやるという気概を感じた。花音も短い間に成長したのかもしれない。
「昨日は寝れたか」
「うん、まあ……ね。それより、さっさと始めようよ」
うん、寝れなかったんだな。まあいい。花音も下手に気遣われるより本題へ入りたいようだから。
「それじゃあ、どうやって美織さんを助けるか考えようか」
そうは言ったものの、肝心のアイディアはいまだに浮かんでいない。そもそも俺だって密かに夜の学校で肝試しをして、その結果として美織さんに出会ったんだ。普通に考えたら、守るべきもののある大人がそう簡単に夜の学校へ侵入するとは思えない。
困った末に、俺は花音に意見を求めてみる。
「何か思いつく方法は無いか?」
「正直、難しいよね。だって、考えてみてよ。『あなたの同級生だった加藤美織さんが夜の学校で待っています』なんて言ったところで、剣心君のパパとママが信じると思う?」
「だよな。俺もそれでどうしようかと思っている」
やっぱり花音でも考えることは同じか。二入でアイディアを出し合えばどうにかなるかと思ったけど、そう簡単でもないみたいだ。
「そう言えば、そもそも剣心君はなんで美織さんに会えたの?」
「え? そりゃあ、アレだよ。仲間と肝試しに行って……」
「ああ、あの肝試しって剣心君も参加していたんだっけ?」
「そうだ。そこで夜の学校をさまよっていた美織さんと出会った」
ついこの間のことなのに、ずいぶんと昔の出来事のように感じられる。それだけこの短期間で起きた出来事の数が多かったのだろう。
ちょっとした感慨に浸っていると、花音がまた口を開く。
「それじゃあさ、同じやり方でまたどうにか出来ないかな?」
「同じやり方っていうのは?」
「つまり、剣心君のご両親にも夜の校舎で肝試しをしてもらうってこと」
「……それ、上手くいくか?」
思ったままの感想を口に出す。
俺も含む男子の悪ガキグループがやったのは、いわゆる不法侵入というやつで立派な犯罪行為でもある。言い換えれば、俺たちは幽霊の恐怖とは別に「逮捕されるかもしれない」というスリルにも直面していたことになる。
大人がどれだけ幽霊を信じているかは知らないけど、普通なら逮捕のリスクを背負ってまで夜中の学校へスリルを味わいに行こうとは思わないだろう。仮にそんな大人がいたら、俺でもちょっと大丈夫かこの人と思うだろうし。
そんな俺の心理を読み取ってか、花音が説明を続ける。
「もちろん不法侵入っていう体ではないよ。何て言うか……その、レクリエーションみたいな」
「レクリエーション?」
「そう。親子で肝試しみたいな、そんな企画にするの」
「いや、そんな企画を学校が許すわけないだろ」
思わずツッコミを入れる。
そんなことが出来たらずいぶん楽だろうなとは思うが、学校はそういったイレギュラーなイベントを嫌う。仮に出来たとしても、美織さんと会っている最中に他の家族が迷い込んできたらややこしいことになる。
「やだなあ剣心君。そこは頭を使わなきゃ」
一瞬だけバカって言われたみたいでイラっときたが、花音には考えがあるようなので素直に聞くことにした。
「つまりさ、肝試しの企画は何も公のものじゃなくてもいいの」
「……どういうこと?」
花音の意図が分からず、思わず訊き返す。
彼女の考えは次の通りだった。
はじめに学校で行われる親子参加型の肝試し大会をでっち上げる。でっち上げるというのは、実際には存在しない肝試し大会をさもあるかのように見せかけるということだ。
後は花音の協力のもとにオヤジと母さんを夜の校舎に呼び込んで、美織さんと対面させる。そうすればスムーズに26年越しの再会が出来るという算段だ。
「どう? なかなかのナイスアイディアでしょ?」
自信満々の顔をした花音を見て、なんとなしに死亡フラグのように感じなくもないが、たしかにそれ以上効果的に思われる対案が無いのも事実だ。そうなると、自ずと花音の案を採用する流れになる。
「まあたしかに。学校の企画ってことにすれば不法侵入の危険を冒してまで学校へ潜入する怖さは無くなるだろうな」
実際には嘘のイベントなので、不法侵入以外の何物でもないわけだが。
すでに花音はその案に乗り気で、やや興奮気味に口を開く。
「じゃあさ、今日にもわたしが肝試しイベントのお知らせ告知を作るからさ、あとは剣心君がそれを使って両親を説得してよ。絶対にそれっぽいやつを作るから」
「おお、そうか。なんか悪いな」
花音がどういうチラシというか告知を作って来るかは未知数だが、俺も学校のプリントを参考にしてありそうな感じの偽物を作っておくか。花音に無理矢理誘われて困っているとかなんとか言って。
最後の方は口に出すと怒られそうなので、俺の方でコッソリとやることにした。
もう「イタズラでした」では済まされないところまで来ているが、美織さんを助けるためには仕方がない。ひいてはオヤジたちだって助けることになるんだから、俺のやっていることはまあ許されるだろう。
正直そこまで名案とも思えない作戦ではあるものの、肝試しの偽イベントの作戦に賭けてみるしかない。
屋上へ向かう際に「夫婦は仲がいいな」とからかわれたが、今さら反応している場合じゃない。それは花音も同じだったのか、俺の手をぎゅっと握ったまま無言を貫いていた。
屋上に来た花音は昨日ずっと泣いていたのか、目がほんのりと赤かった。それでもその目には強い意志というか、困難があっても乗り越えてやるという気概を感じた。花音も短い間に成長したのかもしれない。
「昨日は寝れたか」
「うん、まあ……ね。それより、さっさと始めようよ」
うん、寝れなかったんだな。まあいい。花音も下手に気遣われるより本題へ入りたいようだから。
「それじゃあ、どうやって美織さんを助けるか考えようか」
そうは言ったものの、肝心のアイディアはいまだに浮かんでいない。そもそも俺だって密かに夜の学校で肝試しをして、その結果として美織さんに出会ったんだ。普通に考えたら、守るべきもののある大人がそう簡単に夜の学校へ侵入するとは思えない。
困った末に、俺は花音に意見を求めてみる。
「何か思いつく方法は無いか?」
「正直、難しいよね。だって、考えてみてよ。『あなたの同級生だった加藤美織さんが夜の学校で待っています』なんて言ったところで、剣心君のパパとママが信じると思う?」
「だよな。俺もそれでどうしようかと思っている」
やっぱり花音でも考えることは同じか。二入でアイディアを出し合えばどうにかなるかと思ったけど、そう簡単でもないみたいだ。
「そう言えば、そもそも剣心君はなんで美織さんに会えたの?」
「え? そりゃあ、アレだよ。仲間と肝試しに行って……」
「ああ、あの肝試しって剣心君も参加していたんだっけ?」
「そうだ。そこで夜の学校をさまよっていた美織さんと出会った」
ついこの間のことなのに、ずいぶんと昔の出来事のように感じられる。それだけこの短期間で起きた出来事の数が多かったのだろう。
ちょっとした感慨に浸っていると、花音がまた口を開く。
「それじゃあさ、同じやり方でまたどうにか出来ないかな?」
「同じやり方っていうのは?」
「つまり、剣心君のご両親にも夜の校舎で肝試しをしてもらうってこと」
「……それ、上手くいくか?」
思ったままの感想を口に出す。
俺も含む男子の悪ガキグループがやったのは、いわゆる不法侵入というやつで立派な犯罪行為でもある。言い換えれば、俺たちは幽霊の恐怖とは別に「逮捕されるかもしれない」というスリルにも直面していたことになる。
大人がどれだけ幽霊を信じているかは知らないけど、普通なら逮捕のリスクを背負ってまで夜中の学校へスリルを味わいに行こうとは思わないだろう。仮にそんな大人がいたら、俺でもちょっと大丈夫かこの人と思うだろうし。
そんな俺の心理を読み取ってか、花音が説明を続ける。
「もちろん不法侵入っていう体ではないよ。何て言うか……その、レクリエーションみたいな」
「レクリエーション?」
「そう。親子で肝試しみたいな、そんな企画にするの」
「いや、そんな企画を学校が許すわけないだろ」
思わずツッコミを入れる。
そんなことが出来たらずいぶん楽だろうなとは思うが、学校はそういったイレギュラーなイベントを嫌う。仮に出来たとしても、美織さんと会っている最中に他の家族が迷い込んできたらややこしいことになる。
「やだなあ剣心君。そこは頭を使わなきゃ」
一瞬だけバカって言われたみたいでイラっときたが、花音には考えがあるようなので素直に聞くことにした。
「つまりさ、肝試しの企画は何も公のものじゃなくてもいいの」
「……どういうこと?」
花音の意図が分からず、思わず訊き返す。
彼女の考えは次の通りだった。
はじめに学校で行われる親子参加型の肝試し大会をでっち上げる。でっち上げるというのは、実際には存在しない肝試し大会をさもあるかのように見せかけるということだ。
後は花音の協力のもとにオヤジと母さんを夜の校舎に呼び込んで、美織さんと対面させる。そうすればスムーズに26年越しの再会が出来るという算段だ。
「どう? なかなかのナイスアイディアでしょ?」
自信満々の顔をした花音を見て、なんとなしに死亡フラグのように感じなくもないが、たしかにそれ以上効果的に思われる対案が無いのも事実だ。そうなると、自ずと花音の案を採用する流れになる。
「まあたしかに。学校の企画ってことにすれば不法侵入の危険を冒してまで学校へ潜入する怖さは無くなるだろうな」
実際には嘘のイベントなので、不法侵入以外の何物でもないわけだが。
すでに花音はその案に乗り気で、やや興奮気味に口を開く。
「じゃあさ、今日にもわたしが肝試しイベントのお知らせ告知を作るからさ、あとは剣心君がそれを使って両親を説得してよ。絶対にそれっぽいやつを作るから」
「おお、そうか。なんか悪いな」
花音がどういうチラシというか告知を作って来るかは未知数だが、俺も学校のプリントを参考にしてありそうな感じの偽物を作っておくか。花音に無理矢理誘われて困っているとかなんとか言って。
最後の方は口に出すと怒られそうなので、俺の方でコッソリとやることにした。
もう「イタズラでした」では済まされないところまで来ているが、美織さんを助けるためには仕方がない。ひいてはオヤジたちだって助けることになるんだから、俺のやっていることはまあ許されるだろう。
正直そこまで名案とも思えない作戦ではあるものの、肝試しの偽イベントの作戦に賭けてみるしかない。



