美織さんの話が終わった。

 何度聞いても、つらくて悲しい話だ。俺の前世でもあると知ってからはいっそう心に来るものがある。俺の方が泣かないようにしないと。

 ……と思っていたら、半ば予想通りに花音は泣きまくっていた。

 やはり同じ女子のせいか、告白しようと決めていた前日に事故で亡くなることの無念さはかなり共感が出来るようだった。

「だからあたしはね、彼が誰と結婚していたって、幸せでいてくれたらいいの。ただ、一言好きだったよって伝えられたら、それだけで報われるのかな」
「ぅっ……ええ、ぅええん。こんなの、こんなの悲し過ぎるよぉお……!」

 花音の目から大量の涙がこぼれ落ちている。一応は美少女に分類される顔だと思うが、涙と鼻水で美少女という概念が丸ごと台無しになっている。

 やっぱりというか、こういう話は弱かったか。知ってたけど。

 さっきまで俺自身が泣きそうだったのに、花音がマジ泣きしたせいでそれどころじゃなくなった。

 まあいい。その方が俺だってやりやすいんだから。いまだに泣きじゃくる花音に声をかける。

「花音、俺は美織さんを助けたい。そのためには君の力が必要だ。協力してくれるか?」
「うん……」

 声に力は無いけど即答だった。やはり花音のお人好しぶりを見込んだのは正解だった。

「美織さん、俺はなんとかしてオヤジたちをここに連れて来る。それまで待っていてもらえるか」
「もちろん。剣心君、良かったね。素敵な彼女がいて」
「……ああ、ありがとう」

 少し前なら二人して脊椎反射で「彼女じゃない」って言っていたと思うけど、今はそんな気分にならない。

 少なくとも俺には美織さんが好きだった時期があった。今でもそうかもしれない。だけど、美織さんと付き合うことは出来ない。それは物理的な問題だけでなく、精神的な面でも言えることだ。

 美織さんとこの世界を結び付けているものは、オヤジに対して好きだと伝えられなかったこと。ただその一点に尽きる。

 そんな中に俺の居場所があると思うほどバカじゃない。猫だった時代の記憶を取り戻してからは余計にそう思うようになった。

 そんな中、いまだに泣き止まぬ花音が口を開く。

「えっぐ……うっぐ……美織さん」
「うん」
「わたし……ぅえ……絶対に……」
「うん」
「あなたを助けるからね……ぇっう」
「ありがとう。剣心君にもまったくおんなじことを言われたよ」

 そう言っていたずらっぽく笑う美織さん。俺も釣られてちょっと笑ってしまった。

 そうだ、きっと思うことはみんなおんなじなんだ。

 だからこそ、俺は美織さんを救わないといけない。

 別に償いなんかじゃない。

 俺にとって彼女は大切な人なんだ。過去も今も、きっと未来も。だからこそ、振り返って後悔しないように全力を尽くしたい。

 それで26年も続いた呪いが終わるなら、俺はなんだってやるさ。