翌日になると、なんだか知らないけど花音がひどい顔になっていた。

「どうした? 体調でも悪いのか?」
「ああ、ちょっと寝付けなくてね。うへへ」

 なんだか知らないが、花音のテンションがおかしくなっている。

 ドン引きしていると、今しがた倒されていたことに気付いたボクサーのように花音が我に返った。

「そそそうだ剣心君。ご両親にはいつ会いに行く? 結納とか、わたしあんまりよく知らないんだけど」
「ちょ……何があった?」

 話の脈略がまったく分からずに戸惑っていると、他の女子が「結納って、花音ちゃんは井村君と結婚するの?」
「わー、お似合い。前から相性いいと思ってたんだよね」
「もうキスはしたの?」

 やめろ。なんだこの祝福ムードは?

 結納っていうのが結婚の前にすることだっているのは知っている。それ以上のことは知らない。いや、それはどうでもいい。

 花音が不用意な発言をしたせいで、朝からクラスの注目が集まってしまった。最悪だ。目立たないよう、秘密裏に動きたかったのに。

「とりあえず、ちょっと落ち着けるところで話そう」

 そう言って花音の手を引いて屋上を目指す。後ろから「お幸せに」という野次が飛んできた。朝っぱらから完璧だったはずの俺の計画がつまずいている。

 とにかく、逃げよう。今は遊んでいる場合じゃない。