切羽詰まっていたのもあってか、急に天啓が舞い降りた。俺……本当に天才かもしれない。

 自画自賛はさておき、両親を美織さんへ会わせるための作戦を思いついた。

 思えば、いきなり両親を深夜の学校へ侵入させて、それから美織さんへ会わせようとするから無理があったんだ。

 ――花音を抱き込もう。

 前に彼女は言った。困ったらわたしのことを頼れと。そう言ったんだから、本当に頼ればいいだけの話だ。

 美織さんの姿は一般人には見えないらしいが、俺が触媒になれば花音や他の人にも美織さんを見ることが出来るのではないか。最悪、姿が見えなくても俺が「通訳」をすればいい。

 ひとまずは美織さんに花音を会わせて、学校の七不思議になっている美織さんの存在を認知させる。それからうまいこと段階を追って説明をしていけば、花音なら味方になってくれるはず。

 俺は知っている。あいつはかわいそうな存在を無視することが出来ない。二代目サノを拾ったこともそうだが、花音の情に弱いエピソードは他にも事欠かない。

 ある時は志半ばで亡くなった歌手の音源を片っ端から買い漁り、泣きながら彼女の歌を聴いていた。他にも保護動物が殺処分される話を知った時、「可哀そうだから全部自分の家で引き取ろう」と両親を困らせたことも知っている。言ってみれば、同情しやすく極度のお人好しでもある。

 周りからすれば厄介な属性も、今回に限っては大いに強みとなる。

 きっと美織さんの無念を聞けば、花音は助けてあげたいと思わずにはいられないはず。そうなれば俺は自身を監視する厄介な奴を味方に付けることが出来る。

 いや、たしかに花音は図書館で俺を助けてくれたし、見た目だったらかわいい方に入る。だけど、いかんせん彼女は束縛が強すぎるんだ。このままだと色々と動きづらい。だからこちら側へ引き入れることにした。

 やっぱり俺は天才だ。なんだか作戦が穴だらけな気がしないでもないけど、花音を味方へ付ければ現在抱えている困難も打開出来る気がする。

 ただ、いきなり言うと失敗する可能性もある。前もって「大事な話がある」とLINEでもしておこう。

 思い立ったらすぐにメッセージを打った。

「明日にちょっと話したいことがあるんだけどいいか」
「いいけど、どうしたの?」
「直接会って話したい。大事な話だから」

 最初は音速で返事が来たくせに、その後は既読が付いただけで返事が無かった。

 ちょっと気になるけど、こちらとしてもあんまりツッコまれたくないのでかえって好都合だ。

 よし、とりあえずさっさと寝よう。

 明日はもうひと仕事だ。

 美織さん、待っていてくれよ。絶対に助けてやるからな。