剣心君は泣いていた。というか、知らぬ間にあたしも泣いていた。

 剣心君が正和君と菜々ちゃんの子供だったなんて。しかも、あたしが拾ったサノの生まれ変わりだなんて、そんなことあるの?

 生まれ変わりだなんてファンタジーみたいだなって思ったけど、あたしも死んでいるから人のことなんか言えないのか。あたしもいつか別の何かに生まれ変わるのかな?

 でも、そうか。それなら色んなことが腑に落ちる。

 それまでほとんど誰もあたしの姿を見ることが出来なかった。霊感の強い子だけがあたしを見れるのかなって思ったけど、剣心君の場合はサノの生まれ変わりだったからあたしのことが見えたのかもね。そう考えると、あたし達の出会いも単なる偶然ではないのかもしれない。

 そんなことを思っていると、涙をボロボロと流しながら剣心君は続けた。

「俺があの時に家を出なければ、トラックの光で固まらなければ、美織さんは死ななかったはずなのに、本当にゴメン」
「大丈夫だよ」

 知らぬ間にあたしの口が動いていた。幽霊のくせに、そのまま本能に任せる。

「あたしはサノを失いたくなかったから自分からトラックに飛び込んだ。結果として死んじゃったけど、サノを助けようとしたことを後悔したことなんて一度も無かった」
「美織さん……」
「そりゃあ、ね。この退屈な生活がいいとは思わないよ? だけどさ、こうやって生き延びたサノが生まれ変わってまで会いに来てくれる。それって本当に素敵なことじゃない? だからあたしはあの時君を助けて本当に良かったよ。生きていてくれて、本当にありがとう」

 そう言いながら、あたしの目にも涙が溢れてきた。幽霊のくせに。年を取ると涙もろくなるって聞くけど本当だったね。

 本当は抱き合ってわんわん泣きたいところだけど、お互いに触れないのでそうもいかない。あたしたちは泣きながら感情が落ち着くのを待った。

 少し経つと、剣心君が口を開きはじめる。

「償いってわけじゃないんだけどさ」
「うん?」
「俺は美織さんを助けたいと思ってる」
「うん」
「美織さん、オヤジに好きだって伝えたかったんだろ?」
「うん、まあ、そうだね。あらためてそう言われると、なんか照れちゃうけど」
「だったらさ、届けようよ。26年前に言えなかった言葉を」

 そう言われて、胸が詰まる思いがした。とっくに心臓なんて燃えてしまったはずなのに、剣心君の言葉を聞いて胸がドキドキしてるのが分かる。

「美織さんの呪い……かどうかは分かんないけどさ、それって、未完了だった告白を成し遂げれば解ける気がするんだよね」
「まあ、たしかに。それが残念すぎて、死んでも死にきれないってところがあるかもね」

 剣心君の言うことも一理あった。

 たしかにあたしは正和君に告白出来なかったのが残念過ぎて、彼に何とか思いを伝えようと学校中でポルターガイストを起こしまくって怖がられた。本当は気付いてほしかっただけなのに。

 あの時は諦めていたけど、あたしが見える剣心君なら、この状況を打開出来るかもしれない。最悪あたしが正和君に見えないままだったとしても、剣心君が通訳みたいに間に立ってくれれば意思の疎通は可能だ。

 ……なんだ、なんとかなるじゃない。

 そう思うと難しくない数式で悩み抜いた末に、あっけなく答えを見つけた気分になった。まるで、悩んでいた自分がバカみたいだった。

 きっと今が動くべき時なんだろう。それこそ、剣心君は神様が送り出してきた救世主だったのかも。

「剣心君。悪いけど、あたしの告白、手伝ってもらえかな?」
「もちろんだよ。美織さんのためだったら、俺は何でもするよ」

 まあ、そこは「いいともー」って言ってほしかったんだけどね。さすがに終わってるか、笑っていいとも。この子の世代だと知らないんだろうな。

 ちょっとした寂しさを覚えながらも、こうして26年前に出来なかった告白を完了させる作戦がはじまった。