肝試し翌日、俺は完全に上の空だった。
いつも通りに中学へは来たが、一限目から内容がまったく頭に入ってこない。気が抜けているのがバレていたか、先生に何度も狙い撃ちで当てられてアホな回答を繰り返し、クラスメイトから笑われた。
だけど、それでも俺は上の空だった。
――どうしたらもう一度美織さんに会えるだろうか。
俺の興味はそれだけだった。
ただの一目惚れではない。でも、なぜか無性に惹かれる。ずっと傍にいたい。そんな想いが、体のどこかから溢れてくる気がした。
これは恋なんだろうか。なんか、違う気がしないでもないような。
「ねえ、井村君」
遠くへ飛んでいた意識を引き戻される。声のした隣を見ると、高橋花音が怪訝な目でこちらを見ていた。髪型は長めのポニーテールで、そこそこ整った顔をしている。飛び抜けて美人というわけでもないので、丁度いいかわいさでクラスの人気者でもある。昨日の仲間たちが盛り上がっていたのも分からないでもない。
腐れ縁なのか、幼稚園からの幼馴染であったのもあり、俺は当初花音を下の名前で呼んでいた。彼女も俺を下の名前で呼んでいた気がするが、知らぬ間に「井村君」に変わっていた。それが昇格なのか降格なにかは俺にもよく分かっていない。
いずれにせよ、俺もおおよそは彼女を苗字で呼ぶようになり、精神的な距離は以前より離れた気がする。それもあってか、心の中でも花音と呼んだり高橋と呼んだり、時々自分でも距離感が分からなくなる。
中学生になると、アホみたいにどこでも走り回っていた時代とは事情が変わってくる。心の距離感が変わり、最近の彼女とはちょっとやりづらい。
彼女はどうしてか俺にちょっかいを出してくることがあるので、正直ちょっと苦手だ。専属の学級委員長に目をつけられているみたいで。
少々面倒くさいが、放っておくとまたうるさくなるので、彼女の相手をしてあげることにした。
「おう、なんだ」
「今日の井村君、なんか変だよ」
「変って何が」
「なんかずーっとボーっとしていて、物思いに耽っている感じ。悩み事でもあるの?」
「そうか。ずっと見ていてくれたんだな」
「なっ……!」
花音の顔が赤くなる。羞恥に歪んだ目が俺を睨んでいた。
「こっちは心配してあげてるんだからね。感謝しなさいよ」
「頼んでないのにありがとう。俺は大丈夫だ。君がそっとしてくれていれば」
「まーた夫婦喧嘩が始まったわ」
俺たちのやり取りを見た健斗が茶々を入れる。こいつのせいで、俺たちはクラスで夫婦扱いになっている。
「夫婦じゃねえわ」「夫婦じゃないもん!」
同時に声が出て、教室に笑いが起きる。どうしてこんな時だけ息がピッタリになるのか。健斗が笑いながらフォローを入れる。
「まあ高橋、心配しなくて大丈夫だ。こいつは昨日徹夜でゲームしていただけだから」
「そうなの? それはそれで……」
「まーまー俺からも言っておくから、これぐらいで勘弁してやんな」
「そうだ。学級委員長は黙ってろ」
俺がダメ押しをすると、また花音の顔が紅潮する。何か言い返そうとしたようだが、健斗が手で抑えるような身振りを見せると、喉元まで出かかった罵り言葉を飲み込んだようだった。俺の勝ちだ。ざまあみろ。
さて、そんなことはどうでもいい。
俺にとって大事なのは、どうやって美織さんに会うかだ。彼女の存在はきっと俺しか知らない。そう考えると少しワクワクする。
うん、善は急げってやつだな。今日にも美織さんに会いに行こう。それで、彼女のことを色々と訊いてみたい。なんでここまで彼女に惹かれるのかは分からないけど、あんな経験をすれば、それに匹敵するイベントがそう無いのも事実だ。
よし、じゃあ今夜の計画でも立てておくか。美織さんのことをもっと知るために。
いつも通りに中学へは来たが、一限目から内容がまったく頭に入ってこない。気が抜けているのがバレていたか、先生に何度も狙い撃ちで当てられてアホな回答を繰り返し、クラスメイトから笑われた。
だけど、それでも俺は上の空だった。
――どうしたらもう一度美織さんに会えるだろうか。
俺の興味はそれだけだった。
ただの一目惚れではない。でも、なぜか無性に惹かれる。ずっと傍にいたい。そんな想いが、体のどこかから溢れてくる気がした。
これは恋なんだろうか。なんか、違う気がしないでもないような。
「ねえ、井村君」
遠くへ飛んでいた意識を引き戻される。声のした隣を見ると、高橋花音が怪訝な目でこちらを見ていた。髪型は長めのポニーテールで、そこそこ整った顔をしている。飛び抜けて美人というわけでもないので、丁度いいかわいさでクラスの人気者でもある。昨日の仲間たちが盛り上がっていたのも分からないでもない。
腐れ縁なのか、幼稚園からの幼馴染であったのもあり、俺は当初花音を下の名前で呼んでいた。彼女も俺を下の名前で呼んでいた気がするが、知らぬ間に「井村君」に変わっていた。それが昇格なのか降格なにかは俺にもよく分かっていない。
いずれにせよ、俺もおおよそは彼女を苗字で呼ぶようになり、精神的な距離は以前より離れた気がする。それもあってか、心の中でも花音と呼んだり高橋と呼んだり、時々自分でも距離感が分からなくなる。
中学生になると、アホみたいにどこでも走り回っていた時代とは事情が変わってくる。心の距離感が変わり、最近の彼女とはちょっとやりづらい。
彼女はどうしてか俺にちょっかいを出してくることがあるので、正直ちょっと苦手だ。専属の学級委員長に目をつけられているみたいで。
少々面倒くさいが、放っておくとまたうるさくなるので、彼女の相手をしてあげることにした。
「おう、なんだ」
「今日の井村君、なんか変だよ」
「変って何が」
「なんかずーっとボーっとしていて、物思いに耽っている感じ。悩み事でもあるの?」
「そうか。ずっと見ていてくれたんだな」
「なっ……!」
花音の顔が赤くなる。羞恥に歪んだ目が俺を睨んでいた。
「こっちは心配してあげてるんだからね。感謝しなさいよ」
「頼んでないのにありがとう。俺は大丈夫だ。君がそっとしてくれていれば」
「まーた夫婦喧嘩が始まったわ」
俺たちのやり取りを見た健斗が茶々を入れる。こいつのせいで、俺たちはクラスで夫婦扱いになっている。
「夫婦じゃねえわ」「夫婦じゃないもん!」
同時に声が出て、教室に笑いが起きる。どうしてこんな時だけ息がピッタリになるのか。健斗が笑いながらフォローを入れる。
「まあ高橋、心配しなくて大丈夫だ。こいつは昨日徹夜でゲームしていただけだから」
「そうなの? それはそれで……」
「まーまー俺からも言っておくから、これぐらいで勘弁してやんな」
「そうだ。学級委員長は黙ってろ」
俺がダメ押しをすると、また花音の顔が紅潮する。何か言い返そうとしたようだが、健斗が手で抑えるような身振りを見せると、喉元まで出かかった罵り言葉を飲み込んだようだった。俺の勝ちだ。ざまあみろ。
さて、そんなことはどうでもいい。
俺にとって大事なのは、どうやって美織さんに会うかだ。彼女の存在はきっと俺しか知らない。そう考えると少しワクワクする。
うん、善は急げってやつだな。今日にも美織さんに会いに行こう。それで、彼女のことを色々と訊いてみたい。なんでここまで彼女に惹かれるのかは分からないけど、あんな経験をすれば、それに匹敵するイベントがそう無いのも事実だ。
よし、じゃあ今夜の計画でも立てておくか。美織さんのことをもっと知るために。



