美織さん、落ち着いて聞いてほしい。

 君と繋がりがあったのは、オヤジや母さんだけじゃない。俺自身もなんだ。

 美織さんの話を聞いてから、何かがおかしいと思っていた。

 26年前のことを調べていたのもあったけど、まるで何かに導かれてでもいるかのように、俺は美織さんの遭った事故に引き寄せられていった。

 事故のことを調べている間に、何度か俺のものじゃないはずの記憶が脳裏をよぎった。まあ、中二病という表現もあるぐらいだから、それは俺の考え出した妄想なんだろうぐらいにしか思っていなかった。

 だけど、実際には違った。

 それは――たしかに俺自身の記憶だった。

 美織さん、俺はあの時、事故の現場にいたんだよ。

 雨の中で捨てられて、どうすればいいのか分からなくて困っていたら、美織さんが助けてくれた。

 美織さんはいつでも優しくて、俺のことを好きでいてくれて、いつも会えるのを楽しみにしていた。

 ――そう。俺は君が拾った黒猫、サノの生まれ変わりだよ。

 自分の意志で戻って来たのに、それに気が付くまでずいぶんと長い時間がかかってしまった。

 当時の俺はバカだったから事情がよく分からなかったけど、美織さんがいなくなって本当に寂しかった。倒れている美織さんを見た時、何が起こったのか分からなくて、同時にその意味を理解したくなくて、「ぼく」はそこから逃げた。

 本当は君に駆け寄ってやるべきだったのに、あまりに残酷な現実を直視出来なかったんだ。

 美織さん、本当にゴメン。「ぼく」があの時家を出て行かなければ、君は死なないで済んだんだ。そうすれば、美織さんだってオヤジに好きだって伝えられたはずなのに。本当に、ごめんなさい。

 その後に俺はのうのうと生きていて、猫の寿命としては短めだったけど穏やかに亡くなった。

 当時に飼い主だったオヤジと過ごす日々は幸せで、もう一度そんな一生を遂げたいと思っていた。だからなのか、今の親たちの子供として生まれてきた。

 きっと美織さんだって普通に結婚して、普通に幸せになれたはずなんだと思う。それなのに、俺が君の未来を壊してしまった。

 本当にごめんなさい。

 何をしても償えることじゃないと思うけど、せめて美織さんが救われる未来にしたい。そのためになら、俺は全力を尽くす。

 だって俺は、昔も今も、君のことが大好きなんだから。