俺は二代目サノを撫でながら、いまだに流れ落ちる涙を拭っていた。

「俺は、本当に戻って来たんだな。オヤジのところに」

 不思議な感覚だった。前世の恋人同士が時を経て再会する話は読んだことがあるけど、俺の前世が猫だったなんて、思いもしなかった。

 でも、考えてみればそう不思議な話でもない。

 もしかしたら猫から人間へ生まれ変わるより前にカマキリになってすぐ死んでいたかもしれないし、人間が生まれ変わったら人間だけに生まれ変わるなんて誰も言っていない。

 ただ、この嘘みたいな本当の話は、他の人には黙っておこう。それは両親だけでなく、高橋花音に対してもそうだ。俺がどれだけ真実だと言っても、前世にリアリティを持たない人々にとってはヤバい人にしか映らないだろう。

 しかし、ああ、なんてことだ。当時の主役たちが、こんなに狭い範囲で集まっていたなんて。これが運命っていうやつなんだろうか。

 どうする? 情報量が多過ぎて、ちょっと何から手を付けたらいいのかも分からないぞ。

 とりあえず、記憶を取り戻した俺が最初にするべきことは何だろう?

 そう考えると、答えは自ずと降ってきた。

 そうだ、俺のせいで美織さんは死んだんだ。俺があの時出かけなければ、トラックのライトにビビらなければ、美織さんは自分を犠牲にする必要はなかったはず。

 ――謝ろう、美織さんに。

 俺が最初にするべきことはそれだ。謝って許されることじゃない。取り返しもつかないし、それを知った美織さんから絶交されてしまうかもしれない。

 それでも、俺は彼女に伝えるべき言葉がある。

 美織さんに会いに行こう。謝って、それから大好きだって伝えるんだ。