トラックのライトがサノを照らす。サノが道路の中央で固まった。トラックはスピードを緩めない。サノの存在に気付いていないみたいだった。

 時間が半分ぐらい止まったみたいにゆっくりと流れる。何もかもがスローモーションになって、その中でサノはまだトラックを見て固まっていた。

 あたしの脳裏に、サノとの思い出が走馬灯のように流れていく。

 ――ダメ。

 こんなところでサノとのお別れなんて、絶対に認めない。

 トラックはすぐそこまで来ている。サノを助けられるのはあたししかいない。

 ゆっくりと流れる一瞬の中で、あたしは思考を巡らせる。いくらスローモーションのような感覚があったとはいえ、どう見てもサノの救助は間に合いそうにない。

 だけど、それでサノが死んでしまったら、正和君がどれだけ悲しむか。あたしだって、目の前にいながらサノを助けることの出来なかった罪悪感でいっぱいになるだろう。そんなの、嫌だ。

 ――サノだって、あたしにとっては大切な家族なんだ。

 そう思った時には体が勝手に動いていた。火事場のバカ力というやつなのか、今までにない速度で道路を横断する。

「サノ!」

 固まっていたサノを道路から拾うと、すぐ横にトラックが来ていた。夜中に響くクラクション。止まっていた時が、その音で動きだしたみたいだった。

 ――間に合わない。

 あたしの直感はそう告げていた。

 ほとんど本能的にサノを道路の脇に投げる。お願い、君だけは助かって。

 その瞬間、激しい衝撃が走った。