「美織さん、ガチでかわいかった……」
無人の廊下を歩きながら、思わず本音が漏れる。
今しがた会ってきた幽霊の少女は顔こそ青白いものの、アイドル並みに整った容姿をしていた。ショートボブの髪型に花が咲いたようなリボンがよく似合っている。あんな美少女がクラスにいたらきっと俺も好きになっていたに違いない。
胸元にリボンの付いたタイプの制服もよく似合っていた。そのままアイドルユニットに入れ込んでもなんら不思議のない美少女だった。
あんなにかわいい女の子が怪談の主役とは思えなかった。理由は分からないけど、彼女はこの学校に居ついている。
「もう一度、会いたいな」
素直にそう思えた。あんなにかわいいコはどこを探してもそういるものじゃない。
これからどうしようか。彼女の存在は口止めされているし。仲間たちに話したところで、多分ヤバい奴扱いされて終わるんだろうな。
そう考えると、やっぱり黙っておくのがベストか。次に会う時はもっとゆっくり話したいな。
物思いに耽っていると、いつの間にか屋上へと着いていた。知らぬ間に恐怖はどこかへと飛んで行っている。また人体模型が動きだしても大して驚かないだろう。
「おう、剣心。遅かったな」
「待たせすぎだろ」
すでに待っていた仲間が声をかけてくる。健斗、大輝、悠真、和馬、涼介――5人全員がいた。他のメンバーは怪奇現象には遭っていないようだった。そりゃそうか。
「遅いって」
悠真が俺をたしなめる。美織さんと話し込んでいたこともあり、ずいぶんと待たせてしまったようだ。
「ああ、ちょっと警備員がいたっぽいから隠れてた」
「え、ガチで? じゃあ帰りは気を付けないとな」
大輝が驚くと、その後ろで和馬がニヤニヤしている。
「おい剣心、お前が逃げてたのは警備員じゃなくてコレだろ?」
「うわっ!」
目の前に人体模型を出されて、俺は後ずさる。和馬はしてやったりという顔でネタバラシを始める。
「いやさ、これ使って後ろの奴を脅かしたらどうなるんだろうと思って、理科室で隠れてたんだよね。そしたらこいつが来てさ……」
和馬がくっくと笑いをこらえながら続ける。
「合言葉の紙を取った時にこの模型を真後ろで持って待ってたら、こいつ絶叫して逃げやがったの」
「お前かーコラ!」
殴りかかる俺から、和馬がゲラゲラと笑いながら逃げていく。あのイタズラは本気で寿命が縮んだ。状況も状況だし、イタズラで済まされるレベルではなかったと思う。
和馬を追い回す俺を健斗が制する。
「まあケンカすんな。みんな、合言葉の紙は持ってるか」
そう言われて、俺も追いかけっこをやめて合言葉の書かれた紙を取り出す。「ね」と書かれた謎の紙。他のメンバーも紙を取り出すと、それぞれに「でも」「でいよう」「いつま」「ずっと」「友だち」と書かれていた。
紙を並び替える。
いつまでもずっと友だちでいようね――これが完成した文章だった。
「おー、なんかちょっとエモいかも」
悠真が顔をほころばせる。
俺の持っていた「ね」だけは取ってつけた感が強い気が否めないないけど、たしかにひと夏の思い出っぽくてエモい気がした。
まだ早いけど、もう一年半もすれば卒業を迎えて、みんなそれぞれの道を歩んでいく。多くは高校に進学するだろうけど、同じ学校へ行く者もそういないだろう。そう思うと、たしかに貴重な思い出だな。
「じゃあ、写真ぐらい撮ってく?」
「心霊写真が撮れたりして」
大輝が冗談めかして言うが、ついさっきまで美織さんと話していた俺としてはあながちあり得ない話でもない。スマホのセルフィーで6人の暑苦しい笑顔の写真を撮った。
「いやあ、青春だねえ」
写真を見ながら涼介が言う。男しか映っていないが、たしかに青春っぽい写真だった。
「今度は花火でもやろうぜ」
「いいなそれ。やるやる」
健斗の提案にみんな乗り気だった。そこへ大輝が口を挟む。
「でも、次は女の子が欲しいよな」
「そうだな。剣心、高橋さんなんか誘えないの?」
「いやー、彼女は……」
彼らが言うのはクラスメイトの高橋花音のことだ。ポニーテールの美少女だが、マジメなのでこういった集まりに来るかどうかは怪しい。というか注意されて計画が潰されそうな気がする。
「あいつはあんまり好きじゃないだろ、こういうの」
「いやー分からんぞ。吊り橋効果ってやつで、花音ちゃんとの仲が急接近しちゃうかも」
「お前高橋さんのことを花音ちゃんなんて呼ぶなよー」
「いや、だって俺ら普通に名前呼びじゃん?」
わちゃわちゃとやりだす野郎ども。
バカだなーとは思いつつも、俺の興味は目下別のところにあった。
――次に美織さんとどうやって会おうか。
俺の関心はこれにしかない。出会った場所こそ女子トイレだったけど、なんか運命を感じる出会い方だった。
「もう一度会いたいな」
真夜中の空を見上げる。月が綺麗な夜だった。
彼女もこの校舎のどこかで、同じ月を眺めているのだろうか。
無人の廊下を歩きながら、思わず本音が漏れる。
今しがた会ってきた幽霊の少女は顔こそ青白いものの、アイドル並みに整った容姿をしていた。ショートボブの髪型に花が咲いたようなリボンがよく似合っている。あんな美少女がクラスにいたらきっと俺も好きになっていたに違いない。
胸元にリボンの付いたタイプの制服もよく似合っていた。そのままアイドルユニットに入れ込んでもなんら不思議のない美少女だった。
あんなにかわいい女の子が怪談の主役とは思えなかった。理由は分からないけど、彼女はこの学校に居ついている。
「もう一度、会いたいな」
素直にそう思えた。あんなにかわいいコはどこを探してもそういるものじゃない。
これからどうしようか。彼女の存在は口止めされているし。仲間たちに話したところで、多分ヤバい奴扱いされて終わるんだろうな。
そう考えると、やっぱり黙っておくのがベストか。次に会う時はもっとゆっくり話したいな。
物思いに耽っていると、いつの間にか屋上へと着いていた。知らぬ間に恐怖はどこかへと飛んで行っている。また人体模型が動きだしても大して驚かないだろう。
「おう、剣心。遅かったな」
「待たせすぎだろ」
すでに待っていた仲間が声をかけてくる。健斗、大輝、悠真、和馬、涼介――5人全員がいた。他のメンバーは怪奇現象には遭っていないようだった。そりゃそうか。
「遅いって」
悠真が俺をたしなめる。美織さんと話し込んでいたこともあり、ずいぶんと待たせてしまったようだ。
「ああ、ちょっと警備員がいたっぽいから隠れてた」
「え、ガチで? じゃあ帰りは気を付けないとな」
大輝が驚くと、その後ろで和馬がニヤニヤしている。
「おい剣心、お前が逃げてたのは警備員じゃなくてコレだろ?」
「うわっ!」
目の前に人体模型を出されて、俺は後ずさる。和馬はしてやったりという顔でネタバラシを始める。
「いやさ、これ使って後ろの奴を脅かしたらどうなるんだろうと思って、理科室で隠れてたんだよね。そしたらこいつが来てさ……」
和馬がくっくと笑いをこらえながら続ける。
「合言葉の紙を取った時にこの模型を真後ろで持って待ってたら、こいつ絶叫して逃げやがったの」
「お前かーコラ!」
殴りかかる俺から、和馬がゲラゲラと笑いながら逃げていく。あのイタズラは本気で寿命が縮んだ。状況も状況だし、イタズラで済まされるレベルではなかったと思う。
和馬を追い回す俺を健斗が制する。
「まあケンカすんな。みんな、合言葉の紙は持ってるか」
そう言われて、俺も追いかけっこをやめて合言葉の書かれた紙を取り出す。「ね」と書かれた謎の紙。他のメンバーも紙を取り出すと、それぞれに「でも」「でいよう」「いつま」「ずっと」「友だち」と書かれていた。
紙を並び替える。
いつまでもずっと友だちでいようね――これが完成した文章だった。
「おー、なんかちょっとエモいかも」
悠真が顔をほころばせる。
俺の持っていた「ね」だけは取ってつけた感が強い気が否めないないけど、たしかにひと夏の思い出っぽくてエモい気がした。
まだ早いけど、もう一年半もすれば卒業を迎えて、みんなそれぞれの道を歩んでいく。多くは高校に進学するだろうけど、同じ学校へ行く者もそういないだろう。そう思うと、たしかに貴重な思い出だな。
「じゃあ、写真ぐらい撮ってく?」
「心霊写真が撮れたりして」
大輝が冗談めかして言うが、ついさっきまで美織さんと話していた俺としてはあながちあり得ない話でもない。スマホのセルフィーで6人の暑苦しい笑顔の写真を撮った。
「いやあ、青春だねえ」
写真を見ながら涼介が言う。男しか映っていないが、たしかに青春っぽい写真だった。
「今度は花火でもやろうぜ」
「いいなそれ。やるやる」
健斗の提案にみんな乗り気だった。そこへ大輝が口を挟む。
「でも、次は女の子が欲しいよな」
「そうだな。剣心、高橋さんなんか誘えないの?」
「いやー、彼女は……」
彼らが言うのはクラスメイトの高橋花音のことだ。ポニーテールの美少女だが、マジメなのでこういった集まりに来るかどうかは怪しい。というか注意されて計画が潰されそうな気がする。
「あいつはあんまり好きじゃないだろ、こういうの」
「いやー分からんぞ。吊り橋効果ってやつで、花音ちゃんとの仲が急接近しちゃうかも」
「お前高橋さんのことを花音ちゃんなんて呼ぶなよー」
「いや、だって俺ら普通に名前呼びじゃん?」
わちゃわちゃとやりだす野郎ども。
バカだなーとは思いつつも、俺の興味は目下別のところにあった。
――次に美織さんとどうやって会おうか。
俺の関心はこれにしかない。出会った場所こそ女子トイレだったけど、なんか運命を感じる出会い方だった。
「もう一度会いたいな」
真夜中の空を見上げる。月が綺麗な夜だった。
彼女もこの校舎のどこかで、同じ月を眺めているのだろうか。



