今日の俺はひどかった。

 事実上一睡も出来ていないせいか、朝から意識が混濁している。授業で当てられると珍回答を連発し、クラスが爆笑に包まれた。

 いや、それだけならまだいいんだ。良くないけど。

 部活になっても疲労と動揺は続いていて、気の抜けた球を投げてはホームランを打たれ、クソボールに手を出して三振になる。さすがに顧問から怒られた。そりゃそうだろう。俺が監督でも「何があった?」というレベルのプレイをしている自覚はある。

 俺は明らかに問題を抱えている。

 佐藤は俺のことが好きだと言った。純粋に嬉しいが、本当の気持ちは加藤へと傾いている。

 俺たちが付き合ったら、この先はどうなるんだろう?

 あの二人と過ごした時間は楽しかった。それが永遠に続くものでないことぐらい重々分かっていることだが、バカみたいに遊んでいられる貴重な異性でもあった。

 その関係が壊れてしまうのは、あまりにも惜しい。

 だけど、どうやら俺が加藤美織というクラスメイトに想いを寄せはじめているのも事実のようだ。

 他人事のように言っているが、彼女を見るとそれだけで胸が苦しくなることがある。彼女にこの想いを打ち明けたらどうなるんだろうと思ったことだって何回だってある。

 だからこそ、夕暮れの川沿いで佐藤が涙を流しながら告白する姿には圧倒されるものがあった。あんなの、俺には出来ない。まだ逆転の懸かった9回裏最後の打席に立つプレッシャーの方がマシだ。

 佐藤はどれだけの恐怖と戦ってきただろう。好きだって気持ちを相手に伝えるのは想像している以上に大変なことだ。

 多くの場合、誰かに抱いた好意は拒絶される。ただフラれるだけならまだいい。だけど、その後に上手くいっていたはずの関係がぎくしゃくしてしまうことだってある。

 まだ佐藤には答えを出していない。

 もし佐藤だけが仲の良い女子であれば、俺は迷いなく彼女の想いを受け入れただろう。

 だけど、今の俺は――

 佐藤とは何度も目が合ったが、結局昨日の答えを出してやることが出来なかった。俺ですらどちらへ進めば正解なのか分からない。誰なんだ、恋心なんていう面倒なシステムを作ったのは。

 でも、やっぱり俺は加藤のことが……。

 どうして心の中でさえ素直にそう言えないのか。俺も重症だ。佐藤はあんなに勇敢だったのに、男の俺はこれほどまでに情けないのか。

 ……誰かを好きになるっていうのは、本当に難儀なことだな。