風呂に入ったまま、知らぬ間に意識が飛んでいた。目は見えているけど、そのまま眠っているような、不思議な感覚だった。

 でも、原因は分かっている。

「まさかだな」

 帰ってから、同じ台詞を何度呟いたのだろう。

 数時間前の衝撃はまだ余波を残している。まさか佐藤に告白されるなんて思いもしなかった。

 夕陽に照らされ、ポロポロと涙を流す佐藤――俺の一度も見たことのない姿だった。

 ――私、井村君のことが、好きなの。本当に、どうしようもないくらいに。

 佐藤の言葉が脳裏にこだまする。仲は良かったが、そんな目で見られているとは思いもしなかった。いや、そう考えると今まで不可解だったことにもすべてつじつまが合ってくる。

 俺がモテる側の人間なのは知っていた。鈍感すぎるとよく言われてきたが、さすがに佐藤があんな顔になるくらい苦しんでいたことに気付けなかったのかと思うと、我ながら鈍すぎて嫌になってくる。

 まさか急に告白されるとは思っていなかったから、ビビって返事を保留にしてしまった。あの状況で慌てて断ったら、佐藤が川に身を投げかねない。咄嗟の判断としては正しかったんだろう。

 しかし、困ったぞ。だって俺は――

 その先は言うのは、たとえ自分自身にであったとしても怖かった。

 先日の遊園地で見た光景が走馬灯のように流れていく。屈託なく笑う加藤の笑顔。まるでアイドルの出てくるPV映像のようだった。

かわいいばかりが女の魅力じゃないとは思っているけど、それでも加藤の容姿は別格だ。顔だけなら、大真面目にトップアイドルとだって戦えると思っている。

 佐藤もかなりの美少女ではあるんだろう。俺の感覚が麻痺しているだけで。だから、普通に考えたら彼女の告白を受け入れたらいい。

 ――と、頭では分かっている。だけど、そう簡単に割り切れないのも事実だ。

 俺の心は揺れている。

 俺のことを好きでいてくれる佐藤を取るのか、それとも知らぬ間に友だち以上の存在と化していた加藤を取るのか。

 加藤を選んでも、あえなくフられる可能性が十分にある。ダメだったから佐藤と付き合うという風にはいかないだろう。それに、そんな計算をしている自分も嫌だ。

 かけがえのない仲間だったはずなのに、恋愛が絡んだせいで自分がひどく打算的で汚い人間に見えてくる。いや、実際に今の俺はそうなんだろう。どうしろって言うんだ。

 あの二人は俺にとって特別な存在だ。天秤にかけて比べるような相手じゃない。それなのに、今の俺はそれを強いられている。答えはいつになっても出てこない。

 今日は寝られる気がしない。

 だからって「開き直ってゲームでもするか」ともなれないのがつらいところだ。

 ああ、俺もいくらかはクズというか、割り切って動じない図々しさがほしい。そんなメンタリティがあれば、こんなことで悩みやしなかっただろうに。