「今日は本当に楽しかったね」

 一通り遊び終えたあたし達は、遊園地を後にするところだった。

 心なしか菜々ちゃんと井村君がぐったりしているように見えなくもないけど、あたしですら疲れてしまうほど遊んだんだから、それも無理のない話だろう。

 メリーゴーランドでお馬さんの上から、菜々ちゃんと井村君が手を繋いでいるのをガッツリ見た。なんだか切ない気持ちになった気もするけど、菜々ちゃんと井村君をくっつけるプランとしては最高の結果になったんじゃないかな。

 うん、あとは強引にグイグイ行けばどうにかなっちゃうんじゃないの?

 あたしの友だち同士でカップル成立か。これはなんか胸にぐっとくるものがあるね。

「またこの三人で遊ぼうね」

 解散ムードの中、あたしはさっさと帰宅しようと思っていた。そうすれば菜々ちゃんと井村君が二人っきりになれるから。

「ああ、そうだな。たまにはこんなのもいいな」
「うん。でも、もうジェットコースターはいいかな」
「それは俺も同意する」

 二人の会話を聞いて、あたしは大笑いした。

 いいな、本当に青春しているって感じがする。

「それじゃあ、あたしはちょっと用事があるからさ」
「お、そうか。じゃあ、またな」
「またね、美織ちゃん」

 二人に見送られて、あたしが先に帰路へ着く。

 このまま上手く行けば、帰り道にキスでもしちゃったりして。

 二人の恋路を思うと、心から幸せになってほしいと思った。

 でも――

「ん、雨?」

 地面にポツポツと水滴が落ちる。

 空を眺めたけど、綺麗な夕陽が沈んでいくところだ。雨なんて降る兆しはどこにもない。

「え? なんで?」

 しばらく見回して、その水滴は雨ではなくて自分の涙だと気付いた。それに気付いた瞬間、混乱とどうしようもなく悲しい気持ちが押し寄せてくる。

「嘘でしょ? なんで? なんでなの?」

 あたしは混乱しながらひとりごちる。

 後ろには菜々ちゃんと正和君がいる。こんな姿、見せられない。

 あたしは夕陽の中を走っていく。止まらない涙を見られないように。どうして泣いているのかは分からないけど、この涙はあの二人に見つかってはいけないのだと思った。

「なんでだよー」

 あたしは自分の体に抗議しながら、最悪な気分で夕陽の中を走って帰った。