帰宅すると、ひとまず書斎へ行った。

「ここに何かがある気がするんだよな」

 過去には書斎で卒業アルバムを見つけていた。だから探せば他にもヒントになるものがあるかもしれない。警察の調査では現場百回という言葉があるらしいし、何度も見ている内に今まで見えなかった手がかりが出てくる可能性だってある。

 書斎に来ると、卒業アルバムのあった付近を中心に捜索を始めた。ほどなくして、両親の卒業文集が見つかった。

「これに何か書いてあるかも」

 小さな声で呟くと、ざっと内容を見ていく。やはり美織さんは亡くなっているせいか、彼女の作文は収録されていなかった。

「オヤジのがある」

 俺はあるページで手を止めた。オヤジの書いた作品が、文集に入っていた。そりゃそうなんだろうけど、中学時代の親が書いていた文章を読むというのは不思議な感覚がある。出席番号からして、後ろには母さんの文章もあるはずだ。

 あまり私情は入れず、文章だけを淡々と追う気持ちで読んだ。

 オヤジの書いた作文には、楽しかった日々と仲間への感謝、後は未来に向けての希望が書かれていた。身内びいきを抜きにしてもよく書かれた文章だと思う。

 だが、後半に気になる記述があった。

「本当は一緒に卒業を迎えるべきだったのに、それが叶わなかった仲間がいる。彼女のことを忘れることはないだろうし、何かの間違いで卒業式に出席してこないかとすら思っている」

 名前こそ出していないが、美織さんのことだと思った。文章は続いていく。

「彼女はきっとどこかから自分たちを見守ってくれていると思う。それに恥じないよう、これからも前を向いて生きていきたい」

 ――まさか、本当に美織さんが見守っているとは思わなかっただろうな。

 美織さんは死後、みんなに気付いてもらおうと物を動かしたり壁を叩いたら怪奇現象として怖がられてやめた。その経緯を思うと少しおかしくなった。

 でも、手書き原稿の字はこの部分だけどことなく震えているように見えた。これを書いた時、オヤジも泣いていたのかもしれない。実際に仲が良かったのだから、美織さんを失った時のダメージは相当大きかっただろう。

 次に母さんの文章を見る。

 母さんの文章も、おおよそは周囲への感謝に溢れた内容になっていた。だが、一つだけ浮いている箇所があった。それは美織さんへ呼びかけているような文章だった。

 そこには「どうしても触れずにはいられないことがあります」と前置きがしてあり、その後に美織さんへの想いが綴ってあった。

「私にとって、美織ちゃんは太陽だった。彼女が突然いなくなって、世界が真っ暗になった」

 わざわざ卒業文集にこれを書かねばならないほど、美織さんの喪失は堪えたようだった。オヤジを取り合って美織さんと母さんがドロドロになっていたかもしれないと思っていたのもあり、どこか安心した。

 そこには次のようにも書かれていた。

「今でも、美織ちゃんはどこで私たちを見ていると思います。信じてもらえるかは分かりませんが、私はいつだって彼女の存在を近くに感じています。きっと卒業式にも来てくれるだろうから、その時はお互いにおめでとうって言いたいです」

 やはりというか、最後の方になればなるほど文字が揺れていた。愛されていたんだな、美織さん。他にも彼女に触れている人たちがちらほらと見られた。

 きっとオヤジたちのクラスにとって、美織さんは卒業までクラスの一員だったのだろう。

 文集で美織さんに触れたものについてはスマホの写真で内容を保存していく。美織さんに伝えたら喜ぶだろう。これだけで成仏出来たらそれはそれでいい気もするけど、そんなに簡単じゃないかもな。

 ……それに、俺の中でも厄介な現象が起きている。

 一連の謎を解き明かして、美織さんを救い出した場合、それは世間一般で言う成仏した状況が想定されるハッピーエンドだと思われる。

 でも、その時が美織さんと会える最後の時になる可能性が高い。あの世へ行くにしても、来世に行くにしても、彼女は本来「こちら側」にはいたらいけない存在なのだ。

 その時、俺自身が彼女の喪失に耐えることが出来るのか。そう思うと確証が無かった。

 だって、俺は彼女のことが――