今日も一日が終わった。
部活は明日だし、剣心君がちょっと気になるかも。
ちょっと、尾行でもしてみようか。これはストーカー行為じゃなくて、剣心君が道を踏み外さないように見守るだけだから。そう、彼のためを思ってやるんだからね。
「なあ、高橋」
「ひいいっ!」
いきなり当の剣心君から話しかけられたせいで、わたしはビックリして死にそうになる。
「なんだ、そんなに驚いて」
「な、な、な、なんでもないよ。どどどうしたの?」
「なんでもないか?」
剣心君がすごく怪しんでわたしを見ている。
なんで? 彼にはわたしの心が読めるの? だとすれば、剣心君のこと……。
パニックになりかけていると、剣心君が口を開く。
「この後ヒマか? ちょっと付き合ってほしい場所があるんだけど?」
「ええ? 井村君、付き合うなんて……まだ心の準備が……」
「? 高橋ってたしか、図書委員だったよな?」
「へ?」
思いもよらない会話の方向に、わたしは思わず間抜けな声を出す。
「ちょっと調べものがしたくてさ。だけど、俺は図書館の使い方がよく分かってないから……」
「あ、ああ、ああ。そういうこと?」
「逆に何のことだと思ってたんだ?」
「ああ、いや、その、別に何でもいいじゃない。それだったらいくらでも助けてあげるよ。何の本を探しているの?」
「昔の新聞記事を調べたくてな」
「出来るけど、どうしてそんなことがしたいの?」
そう言うと、剣心君が一瞬だけ微妙な顔をした。
「昔、この学校の周辺で事故があったらしくてな。ネットには情報が無いんだ。だから過去の新聞なら記録が残っているんじゃないかってな」
「そうなの」
「なんで?」って訊こうと思ったけど、それよりも「付き合う」の意味を勘違いしていた恥ずかしさの方が勝っていて、わたしの注意はそっちへ行っていた。
うう、恥ずかしい。剣心君、わたしが動揺していた理由、もしかして気付いているのかな? 死にたい。
恥ずかしくて死にたい思い出がまた一つ増えた。でも、いいことだってある。
「それじゃあ一緒に行こう。助けてくれてありがとう」
剣心君がニコっと笑う。その笑顔に、わたしのハートはドーンと撃ち抜かれる。ずるいよ、そんな表情が出来るなんて。
「うん……じゃあ、行こう?」
そう言って手を差し出すと、剣心君は一瞬だけ驚いた顔をしてからわたしの手を取った。思わずやっちゃったけど、その様子を見た周囲から視線が集まる。
「お、剣心。今日は花音ちゃんとデートか?」
他の男子がめざとく見つけてからかってくる。顔がかーっと熱くなってくる。
「バカ、涼介。そんなんじゃねえよ」
剣心君は手を離して反論する。ああ、手を繋いでいる時間が終わっちゃった。どっちにしても、このままだったら恥ずかしさで死にそうだったけど。
「でも、二人だったら似合うかもね」
女子のクラスメイトまで乗っかってきて、ちょっと騒ぎが大きくなる。
「ちち違うって。ちょっと、ほんのちょっと井村君のことを手伝うだけなんだから!」
うっかり「剣心君」と言わないように気を付けながら反論する。でも、自分でも顔が真っ赤になっているのが分かる。言葉はごまかせても、身体的な反応はどうしようもない。
ああ、恥ずかしい。死にたい。秘密の図書館デートだと思ってた自分を叱り飛ばしたくなる。
あちこちから、ニヤニヤした視線が注がれてくる。
「高橋、行くぞ」
そのままカップル成立みたいな空気になるのが嫌だったのか、剣心君がわたしの手を取って引っ張っていく。
「お幸せにー!」
教室を出る時、誰かの声がわたし達の背中を追いかけてきた。
「しょうがないな、あいつらは」
わたしの手を引く剣心君は冷静だった。その横顔を見た時、ドキっとした。
「わたしは、別に嫌じゃなかったけど……」
「ん? なんか言ったか?」
「いや、何も……」
消え入りそうな声で漏れた本音は、届かないまま空気へ溶けていった。
わたし達はまだ手を繋いで歩いている。
この時間が、ずっとずっと続いたらいいのに。
部活は明日だし、剣心君がちょっと気になるかも。
ちょっと、尾行でもしてみようか。これはストーカー行為じゃなくて、剣心君が道を踏み外さないように見守るだけだから。そう、彼のためを思ってやるんだからね。
「なあ、高橋」
「ひいいっ!」
いきなり当の剣心君から話しかけられたせいで、わたしはビックリして死にそうになる。
「なんだ、そんなに驚いて」
「な、な、な、なんでもないよ。どどどうしたの?」
「なんでもないか?」
剣心君がすごく怪しんでわたしを見ている。
なんで? 彼にはわたしの心が読めるの? だとすれば、剣心君のこと……。
パニックになりかけていると、剣心君が口を開く。
「この後ヒマか? ちょっと付き合ってほしい場所があるんだけど?」
「ええ? 井村君、付き合うなんて……まだ心の準備が……」
「? 高橋ってたしか、図書委員だったよな?」
「へ?」
思いもよらない会話の方向に、わたしは思わず間抜けな声を出す。
「ちょっと調べものがしたくてさ。だけど、俺は図書館の使い方がよく分かってないから……」
「あ、ああ、ああ。そういうこと?」
「逆に何のことだと思ってたんだ?」
「ああ、いや、その、別に何でもいいじゃない。それだったらいくらでも助けてあげるよ。何の本を探しているの?」
「昔の新聞記事を調べたくてな」
「出来るけど、どうしてそんなことがしたいの?」
そう言うと、剣心君が一瞬だけ微妙な顔をした。
「昔、この学校の周辺で事故があったらしくてな。ネットには情報が無いんだ。だから過去の新聞なら記録が残っているんじゃないかってな」
「そうなの」
「なんで?」って訊こうと思ったけど、それよりも「付き合う」の意味を勘違いしていた恥ずかしさの方が勝っていて、わたしの注意はそっちへ行っていた。
うう、恥ずかしい。剣心君、わたしが動揺していた理由、もしかして気付いているのかな? 死にたい。
恥ずかしくて死にたい思い出がまた一つ増えた。でも、いいことだってある。
「それじゃあ一緒に行こう。助けてくれてありがとう」
剣心君がニコっと笑う。その笑顔に、わたしのハートはドーンと撃ち抜かれる。ずるいよ、そんな表情が出来るなんて。
「うん……じゃあ、行こう?」
そう言って手を差し出すと、剣心君は一瞬だけ驚いた顔をしてからわたしの手を取った。思わずやっちゃったけど、その様子を見た周囲から視線が集まる。
「お、剣心。今日は花音ちゃんとデートか?」
他の男子がめざとく見つけてからかってくる。顔がかーっと熱くなってくる。
「バカ、涼介。そんなんじゃねえよ」
剣心君は手を離して反論する。ああ、手を繋いでいる時間が終わっちゃった。どっちにしても、このままだったら恥ずかしさで死にそうだったけど。
「でも、二人だったら似合うかもね」
女子のクラスメイトまで乗っかってきて、ちょっと騒ぎが大きくなる。
「ちち違うって。ちょっと、ほんのちょっと井村君のことを手伝うだけなんだから!」
うっかり「剣心君」と言わないように気を付けながら反論する。でも、自分でも顔が真っ赤になっているのが分かる。言葉はごまかせても、身体的な反応はどうしようもない。
ああ、恥ずかしい。死にたい。秘密の図書館デートだと思ってた自分を叱り飛ばしたくなる。
あちこちから、ニヤニヤした視線が注がれてくる。
「高橋、行くぞ」
そのままカップル成立みたいな空気になるのが嫌だったのか、剣心君がわたしの手を取って引っ張っていく。
「お幸せにー!」
教室を出る時、誰かの声がわたし達の背中を追いかけてきた。
「しょうがないな、あいつらは」
わたしの手を引く剣心君は冷静だった。その横顔を見た時、ドキっとした。
「わたしは、別に嫌じゃなかったけど……」
「ん? なんか言ったか?」
「いや、何も……」
消え入りそうな声で漏れた本音は、届かないまま空気へ溶けていった。
わたし達はまだ手を繋いで歩いている。
この時間が、ずっとずっと続いたらいいのに。



