「サノ、俺はどうしたらいいんだろうな」

 夜の自室で黒猫のサノと戯れながら、ほとんど独り言のように問いかける。

 サノは俺の心理など知らず、指先に頭をこすりつけて甘える。喉を撫でてやると、気持ちよさそうな声を出していた。

 美織さんがオヤジの同級生だったとは。まさかと言いたいところだけど、だからこそ息子の俺が彼女に引き寄せられたのかもと思うと、理屈は通る気がする。

 美織さんを何とかしてあげたいけど、なんか、色んな要素がからまってきて面倒くさくなってきた。いや、そんなことを言っちゃいけないことぐらい分かっている。だけど、それを差っ引いても中学生の俺が手に負える案件ではなくなってきた気がする。

 どうしようか。なんか手詰まりになってきた感があるな。

「おい、サノ。お前だったらどうする?」

 いや、ゴロゴロじゃなくてさ、美織さんを助けるにはどうしたらいいか訊いてるんだけど。文字通り、猫の手も借りたい状況だし。

 ……いや、待てよ。美織さんが拾った猫が初代サノってことは、実際にサノを飼っていたのってオヤジじゃん。なんだお前、前世からこの家にいたの?

 ……って、サノの名前を拝借したのは俺だけどな。アホか俺は。

 でも、ようやくオヤジと母さんが変な顔をした理由が分かったよ。そりゃそうだよな。きっと俺は美織さんとまったく同じ理由で拾った猫にサノって名前を付けたんだろうな。そりゃ驚くか。

 となると、先代のサノについて訊いてみるのも一つの手か?

 でも、唐突に訊き過ぎるとなんか怪しまれそうだな。ちょっと頭を使って訊くタイミングを選ばなきゃ。

 ありがとう、サノ。お前のお陰でちょっと前に進んだ気がするよ。

 先代がどうなったかは知らないけどさ、俺はお前のことを最後まで大事にし続けるからな。だからどこにも逃げないでくれよ。