「やっぱり夏って言ったら肝試しだよな」
真夜中の校舎を前に、俺は誰にともなく呟いた。今、胸の内はワクワク感でいっぱいだ。
どこの学校でもありそうな話だが、ウチの学校には何年も前に死んだ女子生徒の霊が住み着いており、時々その姿を現すという怪談が伝わっている。
ある人は「彼女」を屋上で見たと言い、ある人は女子トイレで見たと言う。いかにも中学生が好きそうな話ではあるけど、ウチの学校で比較的長く受け継がれてきた怪談でもあるらしい。
それもあってか、両親に近い世代へ聞いても「ああ、あの話ね」と分かるぐらい有名な話だった。同じ中学出身であれば、トイレの花子さんぐらい有名な存在ではあるだろう。
世代を超えて語り継がれる彼女はどんな姿をしているのか。そして、夜な夜な彼女は誰もいない学校で何をしているのか。そう考えると興味が湧いてきた。
――そこで俺たちは思った。「彼女」に会ってみようと。
もう少しすれば夏休みになるけど、部活もやっていない俺としては、悪友たちと中学の思い出を作っておきたかった。
まだ中二ではあるものの、来年は受験勉強で遊んでいる場合でもなくなるだろう。そういう意味では、こうやって悪さをして楽しむのも最後になるかもしれない。イタズラに近い遊びではあるけど、俺にとっては大事なイベントだ。
そういうわけで、俺は悪友の5人を集めて、夜中の学校で肝試しをすることとなった。当初の目的は死んだ女子生徒の霊を探しに行くというものだったが、計画を立てているうちに幽霊の捜索というよりはシンプルに肝試しを楽しもうという形へ落ち着いたのだった。
俺たちは「ちょっと友だちの家に行ってくる」と嘘をつき、それぞれの家を出て学校前にまで集合した。
「おう剣心、来たか」
俺に気付いた友人たちが手を振る。
学校へ来ると、すでに田中健斗、山本大輝、中村悠真、吉田和馬、石川涼介の5名が来ていた。クラス屈指の小悪党たちだ。俺もだけど。
軽く挨拶を交わすと、さっそく本題に入る。
「じゃあ、順番はどうしようか?」
健斗がみんなに訊くと、「くじ引きにしようぜ」と悠真が言うので、あみだくじで誰から行くか決める。運がいいのか悪いのか、俺が最後になっていた。
「じゃあ、出発は5分おきだな。ビビって止まるなよ。後ろの奴に追いつかれるからな」
和馬がニヤニヤと笑いながら言う。追い付かれたら何かイタズラでもされるんだろう。俺は最後だから関係ないけど。
肝試しのコースは決まっていた。
学校の裏口には小さな扉があり、そこにはどうしてか鍵が掛からない造りになっている。一部の生徒たちはそこから侵入出来ることを知っているので、俺たちもそこから校舎内へと侵入する段取りだ。
俺たちはイタズラ坊主だけどバカではない。いや、バカかもしれないけど、悪知恵を使うことは出来る。
肝試しに当たって、事前に下調べはしてあった。俺たちの学校では夜の9時ぐらいまで警備員がウロウロしていて、それに見つかると死にはしないものの翌日に先生から大目玉を喰らうことになる。
だが、逆に言えば9時から先は警備員も帰ってしまうので、俺たちはその頃合いを狙って侵入することにした。その後は機械警備になるらしいが、職員室や校長室など、盗まれたらまずい書類がある場所以外は通っても大丈夫らしい。単に機材を取り付けるだけの経費が無いからだ。
警備体制については、ひとたらしの大輝が先生からそれとなく情報を引き出していた。いつもくだらないことばっかり言って人を笑わせている奴だが、笑わせながら情報を引き出しているんだから敵に回せば恐ろしい。
それはともかくとして、我らが楽しい肝試しは間もなくスタートする。順番通りに仲間たちが時間差で学校へと忍び込んでいくが、特に和馬がニヤニヤと笑いをかみ殺しているのが気になった。こいつ、何かやる気なんだろうか。
とはいえ俺も深夜の学校に忍び込む楽しみの方が圧倒的に勝っていたので、あまり気にせずさっさと行くことにした。
――いざ、夜の学校へ。
真夜中の校舎を前に、俺は誰にともなく呟いた。今、胸の内はワクワク感でいっぱいだ。
どこの学校でもありそうな話だが、ウチの学校には何年も前に死んだ女子生徒の霊が住み着いており、時々その姿を現すという怪談が伝わっている。
ある人は「彼女」を屋上で見たと言い、ある人は女子トイレで見たと言う。いかにも中学生が好きそうな話ではあるけど、ウチの学校で比較的長く受け継がれてきた怪談でもあるらしい。
それもあってか、両親に近い世代へ聞いても「ああ、あの話ね」と分かるぐらい有名な話だった。同じ中学出身であれば、トイレの花子さんぐらい有名な存在ではあるだろう。
世代を超えて語り継がれる彼女はどんな姿をしているのか。そして、夜な夜な彼女は誰もいない学校で何をしているのか。そう考えると興味が湧いてきた。
――そこで俺たちは思った。「彼女」に会ってみようと。
もう少しすれば夏休みになるけど、部活もやっていない俺としては、悪友たちと中学の思い出を作っておきたかった。
まだ中二ではあるものの、来年は受験勉強で遊んでいる場合でもなくなるだろう。そういう意味では、こうやって悪さをして楽しむのも最後になるかもしれない。イタズラに近い遊びではあるけど、俺にとっては大事なイベントだ。
そういうわけで、俺は悪友の5人を集めて、夜中の学校で肝試しをすることとなった。当初の目的は死んだ女子生徒の霊を探しに行くというものだったが、計画を立てているうちに幽霊の捜索というよりはシンプルに肝試しを楽しもうという形へ落ち着いたのだった。
俺たちは「ちょっと友だちの家に行ってくる」と嘘をつき、それぞれの家を出て学校前にまで集合した。
「おう剣心、来たか」
俺に気付いた友人たちが手を振る。
学校へ来ると、すでに田中健斗、山本大輝、中村悠真、吉田和馬、石川涼介の5名が来ていた。クラス屈指の小悪党たちだ。俺もだけど。
軽く挨拶を交わすと、さっそく本題に入る。
「じゃあ、順番はどうしようか?」
健斗がみんなに訊くと、「くじ引きにしようぜ」と悠真が言うので、あみだくじで誰から行くか決める。運がいいのか悪いのか、俺が最後になっていた。
「じゃあ、出発は5分おきだな。ビビって止まるなよ。後ろの奴に追いつかれるからな」
和馬がニヤニヤと笑いながら言う。追い付かれたら何かイタズラでもされるんだろう。俺は最後だから関係ないけど。
肝試しのコースは決まっていた。
学校の裏口には小さな扉があり、そこにはどうしてか鍵が掛からない造りになっている。一部の生徒たちはそこから侵入出来ることを知っているので、俺たちもそこから校舎内へと侵入する段取りだ。
俺たちはイタズラ坊主だけどバカではない。いや、バカかもしれないけど、悪知恵を使うことは出来る。
肝試しに当たって、事前に下調べはしてあった。俺たちの学校では夜の9時ぐらいまで警備員がウロウロしていて、それに見つかると死にはしないものの翌日に先生から大目玉を喰らうことになる。
だが、逆に言えば9時から先は警備員も帰ってしまうので、俺たちはその頃合いを狙って侵入することにした。その後は機械警備になるらしいが、職員室や校長室など、盗まれたらまずい書類がある場所以外は通っても大丈夫らしい。単に機材を取り付けるだけの経費が無いからだ。
警備体制については、ひとたらしの大輝が先生からそれとなく情報を引き出していた。いつもくだらないことばっかり言って人を笑わせている奴だが、笑わせながら情報を引き出しているんだから敵に回せば恐ろしい。
それはともかくとして、我らが楽しい肝試しは間もなくスタートする。順番通りに仲間たちが時間差で学校へと忍び込んでいくが、特に和馬がニヤニヤと笑いをかみ殺しているのが気になった。こいつ、何かやる気なんだろうか。
とはいえ俺も深夜の学校に忍び込む楽しみの方が圧倒的に勝っていたので、あまり気にせずさっさと行くことにした。
――いざ、夜の学校へ。



