井村君は相変わらず毎日眠そうだ。

 今日の授業でも先生に当てられてボケた感じのリアクションをしていたけど、そもそも頭がいいから質問の意味を理解した途端に迷いなく解答を導き出した。

 隣で見ていたから知っている。彼はとても頭がいい。

 だけど、どうにも掴み切れないところがあるのも事実。皆の知らないところで何かをやっている気がするんだけど、どうやってもシッポを掴ませてくれない。

 わたしを差し置いて、一体君は何をしているの?

 そう訊きたいけど、そんなことをすれば他の男子にからかわれる。それはイヤ。わたしはクラスの風紀的なものが乱れないか心配しているだけなのに、わたしが剣心君にガチ恋だってストーリーが作られちゃうのは納得がいかない。まあ、悪い気はしないんだけどさ。

 って、そんなことはどうでもいい。ちょっと探りでも入れてみるか。

 今は休み時間。井村君は自分の席でぐでーってなってる。悪ガキの友だちもいないから、声をかけるなら今がチャンスだ。

 彼の寝ている机を指でコンコンと叩く。半分だけ目を開けた井村君がこちらを向いた。

「ねえ、あれからサノちゃんは元気?」
「え? ……ああ、まあ元気だよ。元気過ぎて困ってるけど」
「元気過ぎて?」
「うん。この前はイタズラで皿を何枚か割られたし、知らぬ間にタンスで爪を研いで傷だらけにしちゃうし、色んな意味でエキサイティング」
「……それは、たしかに大変だね」

 思えば、そういった被害はわたしの方が受けるはずだった。

 だけど、ウチはハムスター等の小動物以外は禁止のマンションだし、井村君の大変さを引き受けてあげることも出来ない。

 加えて、先日にママが猫アレルギーだったことも分かった。たとえ猫を飼っても大丈夫なマンションだったとしても、わたしは非常に困った立場になっていたに違いない。

 ふと思った。井村君が眠そうなのって、実はわたしのせいじゃない?

「もしかして、それで寝不足なの?」
「え? ……ああ、まあそうかな、多分」
「そう……」

 井村君はまた眠りに落ちたようだった。それ以上、話しかける勇気は無かった。

 井村君は色々と言葉を濁したけど、どうやら彼の寝不足はわたしのせいらしい。なんだ、彼のことを疑っていたなんて馬鹿みたいじゃない。

 それにしてもサノちゃんは元気なのか。良かった。あの子、本当にかわいかった。

 もう一度抱っこしたいな。

 頼んだら、井村君の家に入れてもらえるかな。そうなったらわたし達の仲も急接近して……ってイヤイヤ、そんなことないって。わたしは、サノちゃんのことが心配なだけ。

 でも、触れるならモフりたいな。ママのクシャミが増えるかもしれないけど。

 今度、井村君にちょっとお願いしてみようか。